12 夢幻への誘い
2月7日14時頃、一ノ瀬家には5人の魔法使いが集結していた。
先日無理やり俺の弟子になった
二人は同じタイミングでここへやって来たらしく事務所の前でばったりと鉢合わせたらしい。
杏莉さんに風助のことを紹介してあげた。「杏莉ねーちゃんよろしくお願いします!」と元気に挨拶していた。風助は猫の姿の陸を見て初めは驚いていたがすぐに慣れて、一緒に遊んでいた。
「それでね、けーちゃん、依頼の話をしてもいいかしら?」
今回の依頼人、神代晶がそう話し始めた。
「ああ、お前の依頼って事は相当厄介な代物なんだろ?」
「ええ、そうだと思うわ。実はワタシの昔の知り合いが眠ったまま目を覚まさなくなっちゃったのよ」
「・・・それは俺じゃなくて医者の仕事になるんじゃないのか?」
「う~ん、それがね、病気とかじゃないみたいなのよね。魂が抜けちゃった、みたいな?」
「前に話を聞いた時も思ったが晶にしてはハッキリしないな」
「ケガとか病気ならワタシでなんとかなると思ったんだけど、そういうんじゃないのよね。意識はないし、かといって生命維持が必要でもなくて。まるで意識だけ抜き取られちゃったみたいなの」
「・・・魔法使いが関係している、そう言いたいわけだな?」
晶はいつになく真剣な顔でこちらを見つめ頷いている。
「たぶんそうだと思うわ。でも誰が、何処で、どんな魔法を使ってるかは全然わからないのよね」
肩を
「他になにか情報はないか?」
「えっと・・・その病室には彼のほかに3人、同じ症状の患者さんがいるのよね・・・」
「合計4人、何処かの魔法使いに意識を抜かれちまったってわけか」
「そう考えるのが自然かなぁ~って思うのよねぇ・・・」
俺は熟考する。魔法使いに意識を奪われた4人の人間に関係性はあるのか?
犯人の狙いは一体なんだ?それが解れば―
「依頼を引き受ける。解決できるかわからないが、とにかく調査するしかねぇな」
「やった♪けーちゃんなら引き受けてくれると思ってたわ♡先に報酬を渡しておくわね♪」
そういって分厚いなにかを放り投げてくる。
受け取って改めてみると万札の束だ。恐らく100万円の束だろう。
「いや、なんだこれ、こんなくれんのかよ!しかも前払いって!」
「いいのよ、それぐらい。それにけーちゃんなら必ず解決してくれるんでしょ?」
差も当然のように話を進めてくる。流石晶だ、やってくれる。
「このカネは何処の男を
「し、失礼ね!そんなことしてないわよ!」
「昨日の脳筋も色仕掛けで落としてたし、絶対男から巻き上げたんだろ?」
「し~て~な~い~!普段はけーちゃんにしかしないわよ!」
「まったく、カワイソウな男たちだな・・・こんな年増に騙されるなんてな」
晶の表情が途端に見えなくなった。髪の毛が逆立ち始めている。
「・・・なにか言ったかしら?」
「あ?30超えた女にだまさ、っで!いてぇよ!」
ゴツン、と鈍い音が俺の頭に響いた。晶の顔の横には拳が握られている。
どうやら殴られたらしい。全く拳の動きが見えなかった。
「ワタシは24よ」
「は?30すぎて、っぐほぁ!いってぇよ!!」
ガン!と先程よりも激しい音が響く。
晶が今までに見たこともない満面の笑みでこちらを覗き込んでいる。
「ニ・ジュウ・ヨン・よ」
「アッハイ」
どうやらこの話題には触れてはいけないらしい。早々に話題を変えることにする。
「あ、晶は今回の調査、手伝ってくれるか?」
「ええ、いいわよ。ワタシ暇だし」
「じゃあ早速だが知り合いの入院している病院に案内してもらえるか?」
「オッケ~♪いきましょ~♡」
「と、言うわけで行ってくる。陸、風助の相手を頼む。杏莉さんは・・・気が向いたら二人のことを見てやってくれ」
「了解しました、主殿」「陸にーちゃんと遊んで待ってるー!」「はい、わかりました」
3人の返事が次々に返ってくる。俺は外へ出かける支度をし、事務所を後にした。
「やった♪けーちゃんとデートね♡」
「仕事だ、し・ご・と!あんまりくっついてくんじゃねぇよ」
病院に向かう間も晶は相変わらずといった様子だ。
「そういえばあのカネは、なにして手に入れたんだ?」
「えっと~、お医者様ごっこ、かしら?」
「そういうプレイが流行ってんの?」
「違うわよ!も~、ワタシ見境ないオンナってワケじゃないのよ!」
「え、違うの?」
「・・・グスン」
「あー、はい、要するに闇医者みたいなもんって事か」
「そんな感じかしら?」
「晶は昔、医師だったのか?」
「う~ん、そんな感じかしらね・・・」
晶の歯切れが悪い。俺に嘘をつきたくはないが、あまり話したくない事情があるのだろう。
以前、元男だったことを指摘した時もかなり動揺していたし、その時代のことをあまり思い出したくないのかもしれない。
晶の過去に興味はあったがあまり詮索するのも失礼だ。
必要になれば自分から話してくれるだろう。
「ついたわよ♪」
そういって晶が指さす。そこは俺が済む地域の総合病院で、数年前に建てられたばかりの真新しい建物だ。
「面会とかはどうするんだ?」
「前に来たときはコッソリ見に行っただけね」
「んじゃ潜入するしかないか」
俺たちは目的の階層の非常階段に降り立ち、そこから潜入した。
廊下に人気はなく、晶の知り合いが居る病室の前まで難なく辿り着く。
部屋の中には晶が言っていた通り、4人の反応があるだけだ。
「おじゃまするわよ~♪」
そういって晶が病室の引き戸を開けた。
「この子が私の知り合い。入院してからもう一か月ぐらいこのままらしいわ」
そういって紹介されたのは30代の男性で、一ヵ月寝たきりの割には血色は良く、やつれた様子もなかった。晶が言っていた通り生命維持装置などは一切つけられておらず、申し訳程度の点滴を行っているだけだ。
今はお昼寝中です、と言われてもなんの疑いもないような、そんな状態にあった。
俺はその男性の額に手をかざし、色々な情報を引き出そうと試みる。だが―
「・・・なんだこれ、意思が全く読み取れねぇな」
「そうなのよ~、寝てるだけならなんとなくわかるケド、心ここにあらずって感じなのよね」
この病室には似たような症例の患者が他に3人入院しているので少し失礼してその3人も同様に意思を読み取ってみる。
「・・・駄目だこりゃ、全員
「やっぱりほかの人も同じ症状みたいね~」
「・・・ここにはもう用はないな、次にいこう」
俺たちは早々に病室を後にした。
「ねぇ、けーちゃん。次はどこにいくの?」
病院の外に出てから晶が訪ねてくる。
「彼らが住んでいた場所だな。あの状態になってしまう前になにをしていたかを調べる」
「なるほどね♪4人の共通点が見つかれば犯人が解るかも、ってことね♡」
「そーいうこった」
まずは晶の知り合いである男性の自宅のマンションへと向かう。
彼は一人暮らしだったらしく、数日間連絡が取れないことを心配した家族が自宅を訪ねた時に寝たきりだったところを発見、入院させたそうだ。
「んじゃ、わりぃけど潜入させてもらうか」
「ゴメンね、おじゃまするわね♪」
部屋の中は綺麗に片づけられている。
入院している間は家族が部屋の掃除などをしているのだろう。
とすると眠りに落ちてしまった時の状況が維持されているとは思えず、情報はなにも得られないかもしれない。
とりあえず部屋を一つずつ確認していくが目ぼしいものは特にない。
唯一気になる物があったといえばパソコンぐらいだろうか。
起動してみたがパスワードの入力を求められ、それ以上手を出すことはできなかった。
最後に奥にある部屋を覗く、するとそこには―
「こ・・・これは?!」
「けーちゃん・・・これって!」
俺たちはその光景に目が釘付けになる。
「うはぁ・・・す、すげぇ・・・」
その部屋は歴代販売されてきたゲーム機やカセット、特殊な周辺機器などゲームに関するグッズが綺麗に陳列されていた。
「なんだこれ・・・うわぁ・・・俺でも画像でしか見た事ないような物まで揃ってんな。これなんて見た事すらねぇや・・・」
なんとも形容し難い形をしたゲーム機らしき物がおいてある。
俺もこの手の物には多少自信があったが、それがなんなのか皆目見当もつかなかった。
「ワタシ、これ家にあったわ♪なつかしいわね~♡」
そういって晶が指さす先には年代物のゲーム機が鎮座している。
手入れが行き届いているらしく日焼けなどもしていない。実際に動かすことも可能なのだろう。
「晶さん、その機種は24歳の家には多分おいてないと思うんですがそれは」
「え?!そ、そうなの?お、おほほ・・・」
同じ機種のゲーム機が複数並べて置いてあったりもする。
型番違いで挙動が若干異なるような物まで網羅しているらしい。
カセットなども気に入っているであろうタイトルは複数揃えてある。
こちらも出荷時期で差異がある物は、もれなく収集しているようだ。
「いやー!俺みたいなエセゲーマーでもこれはヤバイな!テンション上がってきた!」
軽く左右に体を動かしながらお約束の分身をしているかのような動作をとる。
「け、けーちゃん・・・なんだか楽しそうね」
「そりゃ楽しいだろ、常識的に考えて!・・・はっ?!う、浮かれてる場合じゃねぇ、遊びにきたんじゃねぇんだから」
「けーちゃんがこんなにはしゃいでるの初めて見たわ♡」
本来の目的を完全に忘れていた。俺はゲーム機の展示会を見に来たわけではないのだ。
「・・・とはいえ、他に目を引くモノなくね?」
「確かにそうね、他の部屋はふつーな感じだったものね。そういえばあの子、昔からゲーム好きだったわね」
「そうなのか?いやまぁこれ見たらそうだとしか思えないが」
「うん、当時流行ってるゲームの話をしたことがあるわ。なんでも知ってて色々教えてくれたもの」
「筋金入りのゲーマーだった、か・・・他に得られる情報はなさそうだな・・・」
この家の住人の趣味がわかったところでなんの役にも立たないだろう。
仕方なくこの家を後にし、残り3人の家を見て回ることにする。
二件目には最新のゲーム機が数台とパソコン。パソコンはロックが掛かっていて中身はわからず仕舞い。
三件目はパソコンのみ。こちらはロックが掛かっておらず、中を覗くとパソコン用のゲームやネットワークゲームをやり込んでいたようである。
四件目にもゲーム機とパソコン。こちらのパソコンにもロックは掛かっておらず、ネットワークゲームを
病院で寝ていた人たちの家を見てわかった共通点は一つ。
程度の差はあれ皆ゲームを趣味としているということだけだった。
「とはいえこのご時世、ゲーム好きなんて腐るほどいると思うしな。ただの偶然で片づけられる程度の一致にしか思えんが」
「そうね、ワタシだってちょっとはゲームするし、けーちゃんも含めたら今日関わった人全員がゲーム好きだものね」
「わかんねぇ・・・手詰まりか?それともゲーム好きってのは偶然じゃない一致なのか?」
情報を整理する。もし仮にゲーム好きというのが魔法使いのターゲットの条件だとしてその目的はなんだ?
解らないことが多すぎる。・・・ふとある考えが俺の頭に思い浮かんだ。
今はその可能性に賭けてみるしかない。
「不特定多数のゲーマーが狙われてると仮定しよう。犯人はあの4人以外にも誰かの精神を奪っているかもしれない。そうであるなら発見されていないだけで何処かで寝たきりの人間が居るんじゃないか?その人間を見つけることができればなにかわかるかもしれないな」
「でもそんな人どうやって見つけるの?一軒一軒見て回るわけにもいかないし」
晶が素朴な疑問を投げかけてくる。
「アテがあるんだ、聞くだけ聞いてみる」
そういって俺はある人間に連絡を取ることにした。
(木田、木田治、今話す時間はあるか?)
(・・・おっ!この声は岩﨑氏!どうかしたのかお?)
俺は人差し指を突き立て、それを額にかざしてテレパシーで木田治に連絡を取ることにした。
奴はオタクだ。もしかするとオタク繋がりでゲーマーの知り合いがいるかもしれない。
その繋がりを追っていけば発見されていない寝たきりになった人間を見つけることができるかもしれない、そう考えたのだ。
(少し聞きたいことがあるんだが、いいか?)
(だいじょーぶだお!答えられる事であればなんでも答えるお!)
(お前の知り合いにゲームが死ぬほど好きなヤツはいないか?)
(いるお!いるお!でもしばらく連絡がないんだお)
(マジか!そいつの住んでる場所はわかるか?!)
(し、しってるお。岩﨑氏、なにかあったのかお?)
(話はあとで説明する、今からその人の家まで案内してもらえないか?)
(だいじょーぶだお、僕は家で待ってるから来てくれなんだお)
(わかった、今から向かうから少し待っててくれ)
・・・これはもしかすると大当たりかもしれない。
「知り合いに連絡を取ってみたがもしかすると他に寝たきりになったゲーマーがいるかもしれない」
「ホント?それじゃ、今からそれを確認しに行くわけね♪」
「そういうこった、まずは知り合いの家に向かう」
「わかったわ♪」
俺は急いで木田治家へ向かった。閑静な住宅街の一角に彼の家はある。
(着いたぞー)
(わかったおー、今外に出るお!)
その声が聞こえて間もなく玄関が開け放たれる。
木田治の後ろに彼が保護している結衣の姿が見える。
「もう地下には居ないのか?」
「みんな家に帰したから今は結衣ちゃんと二人きりだお。えーと、隣にいる美人さんは岩﨑氏の彼女さんかお?流石岩﨑氏なんだお!」
「そうよそうよ♪初めまして、神代晶よ。晶でいいわ。よろしくね♪」
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
「彼女じゃねぇから・・・」
「初めましてだお、木田治だお!」
「まぁ、悪いがそのゲーム好きの家まで案内してくれ」
「オッケーだお!結衣ちゃん、ちょっと行ってくるから待っててくれお」
「・・・わかった」
彼女は静かにそう答えた。
木田の案内で彼の知人の家を目指す。道中彼に今までの経緯を話す。
「なるほどなんだお。今から向かう僕の友達は三ヶ月ぐらい前から連絡取ってないんだお。どうせネトゲー廃人してるんだろうと思って気にしてなかったんだお」
「ははは・・・そういうことか」
もし木田の言う通り、ゲームに没頭しているだけならその彼の知り合いを当たるしかない。眠っていてくれると楽で済むのだがと俺の中の悪魔が囁く。
「到着だお、おーい!いるのかおー?」
木田がそう叫びながらアパートの一室のチャイムを連打している。しかし家の中から人が出てくる様子はない。
「この時間なら家にいるはずなんだけど、寝てるのかおー?」
家には鍵がかけられている。仕方ない、また潜入するしかなさそうだ。
「木田、悪いが勝手に上がらせてもらうぞ」
「わかったおー、どうせなんの問題もないお!」
家主ではないが知人からは許可を得たので、鍵を開け家の中に入る。
玄関には靴が一足おいてあり、家の中から一人の気配を感じ取ることができるがやけに静かだ。木田がすぐそばにあった部屋のドアを開ける、するとそこには一人の男が布団の中で眠っていた。
「お、やっぱり寝てたお。おーい、起きるんだおー」
しかし眠っている男は微動だにしない。俺はその男に近づき頭に手をかざす。すると―
「・・・どうやらコイツも精神を抜き取られてるな」
「えっ、ほんとかお?!」
「ああ、間違いない。病院にいた奴らと全く一緒だ。部屋の様子からしても三ヶ月ぐらい眠ったままみたいだな」
この家に入った時に感じたのだが、数ヶ月の間放置されたような雰囲気があった。
部屋を見渡してみると、うっすらと埃が積もっているのがわかる。
病院で眠っていた患者たちはつい最近発見された人ばかりだったが、ここで眠っている人物はそれ以前からこの状態になっているらしい。
「けーちゃん、こっちにパソコンあるわよー♪」
奥の部屋から晶の声が聞こえる。向かってみるとそこには複数のゲーム機とパソコンが設置してある。
俺は早速パソコンの電源を入れる。しかしまたしてもパスワードの入力を求められる。
「っち、またか・・・」
すると木田がこちらに向かってきて話しかけてくる。
「岩﨑氏、ちょっと代わってくれお。これぐらいならすぐ解けるんだお」
「マジかい」
「少し待っててほしいんだお」
そういうと木田は高速でタイピングをし始めた。
どうやらパソコンの扱いには相当慣れているらしい、ここは彼に任せよう。
改めて部屋を見渡す。複数設置されたゲーム機のコントローラーたちは久しく触れられた形跡がない。
「ここでなにか掴めないと面倒なことになりそうだな」
「そうねー、なにかわかればいいケド」
「キター!岩﨑氏、解けたおー!」
木田がそう叫ぶ。どうやらパスワードを解き終えたようだ。
「あいつ、自分の好きなゲームのヒロインをパスにしてたお」
「適当に入力したのか?」
「違うお、パスを解析したんだお。そういう関係の仕事してますしおすし」
「お前意外とやるんだな」
「フフリ・・・もっと褒めてくれてもいいんだお」
引き続き木田がパソコンの操作をしている。ウェブの鑑賞履歴や色々なログを漁っている。
「やっぱり三ヶ月以上前から寝てたみたいだお、それ以降このパソコンは使われてないんだお」
「そうか、他になにかわかりそうか?」
「う~ん、最後に使われた日のチャットログが怪しい気がするお」
「えーと・・・夢の中でゲームができる・・・?バーチャルリアリティーネットワークゲームぅ?」
「夢の中でネトゲーができるっていう噂話をしてたみたいだお」
「・・・お前の友人はそれを信じて眠りにつき、そのまま精神がゲームの世界に入り込んじまったってワケか?」
「チャットの内容からするとそうかもしれないお」
「魔法使いが関わっているならありえない話じゃないかもな・・・」
どうやらゲーマーたちが眠っている原因がわかったかもしれない。
「この現象を引き起こしている魔法使いはゲーマーたちの精神を集めて仮想世界でゲームをさせているってことか」
「うーん・・・信じがたいけどそういうことみたいだお」
「けーちゃん、どうやら謎が解けてきたみたいね♪」
「そうだな・・・今までの情報と照らし合わせてみると一番しっくりくる答え・・・なのか?」
「でもこれからはどうするつもり?」
「どうやって、は解った。後は何処で、何故なのかが解れば囚われている人たちを解放できるかもしれないな。まぁ今日はもう遅いし一旦事務所に戻ってから考えよう」
「そうね、そうしましょうかしら」
「木田、お前のおかげで重要な情報を手に入れることができた、ありがとな」
「いいんだお!岩﨑氏には借りがあるから力になれて嬉しいお!」
「寝たきりの友人はこのままにしておいても死ぬことはないはず、とりあえずここを出よう」
そういって木田の友人の家を後にした。
「木田、今日は色々と助かったぜ、この件が解決したら連絡するよ」
「わかったお、岩﨑氏、晶氏、それじゃあバイバイだお!」
「まったね~♪」
木田は自宅に向かって飛び立っていった。
「俺たちも帰ろう」
「そうね 帰りましょ♪」
合計5人のゲーマーたちの調査を終え事務所に戻る。
これから先の方針は考えてはある。だが果たしてうまくいくかどうか・・・。
一抹の不安を抱きながら俺たちは事務所へと帰還した。
同日20時頃、一ノ瀬家にて、俺たち5人は晩ご飯を食べていた。
晶から貰った報酬で杏莉さんが皆にご馳走を振舞ってくれた。
ちょっとしたパーティーのようだった。
「くぅー!杏莉ねーちゃんのご飯うめぇー!」
風助は異次元の料理人の実力を知るのはこれが初めてだったが、屈託のない笑顔でそれを味わっていた。
流石に5人分の豪華な料理を作るにはキッチンの施設や調理器具が足りなかった。
しかしそこは異次元の料理人、その通り名に恥じぬ手法でその問題を解決して見せた。
もはや食材を刻むのに包丁は要らず、柔らかいものであれば
食材に火を通すのもコンロなど必要なく、空中で丁度良い加減に熱せられる。
なにかを混ぜ合わせる際にもボウルなど使うことなく、空中で透明な器の中でかき混ぜられているようだった。
「私、ちょっとすごいかも!」
「いや、ちょっとどころじゃなくて十分すげぇよ・・・」
珍しく自画自賛する杏莉さんに俺は呆気にとられながら称賛の言葉を投げかける。
魔法の力は想いの力だ。杏莉さんの料理への情熱とその想像力とが噛み合って神懸った速度で魔法が上達していた。
「あー、くったくったー!やっぱりうんめぇなぁ!」
「杏莉ちゃん、ご馳走様♪やっぱり料理じゃ勝ち目はないわねぇ」
「杏莉ねーちゃんごちそうさまでした!すっごくうめかったー!」
「今日はまた一段と素晴らしい出来栄えでしたね」
料理を食べていた4人が絶賛の言葉を杏莉さんに向けている。
「みんなが喜んでくれて私も嬉しいです」
そういって杏莉さんは微笑んでいる。だが俺には解ってしまった。
その瞳の奥にその場にそぐわない悲しみが混じっている事が。
俺はその瞳に吸い込まれてしまうような感覚に陥った。
すると杏莉さんがこちらを向き目が合った。
本当はもう一人、この場にいてほしい人が居るのだろう。
その人がこの場にいないことに寂しさを感じているのだ。
俺はゆっくりと目を瞑り、口元を優しく綻ばせた。「大丈夫だ、安心しろ」そう強く念じながら―
「そういえば晶の依頼の件なんだが」
そういうと場にいた皆の視線が俺に集まる。
「状況はさっき話した通りだ。で、これからどうするかを俺なりに考えたんだが・・・。一度犯人の魔法使いが作ったゲームの世界に行ってみようと考えている」
「けーちゃん、そんなことして平気なの?だって戻ってこれる保証、ないんでしょ?」
「そうだな、だがゲームならなんらかの方法で戻ってくることが可能なんじゃないかと思う。例えばセーブポイントがあるとか、ボスを倒すとゲームクリア、とかな。ただ三ヶ月も眠ったままのヤツが居ることを考えるとその可能性は低いとは思うが。噂が本当ならバーチャルリアリティーネットワークゲーム、という事だからゲームの中で生活をしているのかもしれん。その精神世界での食事なんかが、現実の肉体とリンクしているなら寝たきりでも死なない事に説明がつくしな。その生活の中で魔法や冒険の世界が広がっている、そう考えるとその世界から抜け出せないのも
「なんだか面白そうだね!オレもつれてってよ、ししょー!」
「・・・お前話聞いてたか?戻ってこれる保証はないんだぜ?」
「ししょーならバーン!ってやってドーン!ってやって戻ってこれるよ!」
「いや、意味が解らん」
「けーちゃんがいくならワタシもいってみようかしら?なんだか面白そう♪」
「お前らなぁ・・・俺はあぶねぇから一人で行くつもりだったんだが」
「皆さんが行くなら私も行ってみたいです!」
風助や晶はわかるが、杏莉さんまで名乗り出始めた。一体どうしたというのだ。
「あ、杏莉さんまで言うのか・・・どうしたもんかな・・・」
「私はげーむというモノが何なのかよく解りませんので、皆様が御帰りになるのを御待ちしております」
陸だけが冷静にこの状況を判断しているようだった。
「・・・解ったよ、今止めても俺が寝た後ついてこられたら変わらないからな。俺、晶、風助、杏莉さんの4人でその世界に行き、情報を集めて戻ってくる。その間陸は留守番、それでいいか?」
「オッケー!ししょー!」「けーちゃんとゲームで楽しむわ♡」「わ、わかりました!」「承知致しました」
4人が一斉に返事をする。本当に大丈夫なのだろうか?正直不安しかない。
「とりあえず今日は遅いから明日昼過ぎにまたここで集まってそれからその世界に向かうとしよう」
そういって今日のところはお開きとした。
俺は自宅に戻り、一人この事件の事を考えていた。
夢の中にゲームの世界が本当に存在するのだろうか?
犯人は嘘の噂を餌にゲーマーの精神をとらえ、何かに悪用しているのではないか?
しかしそうなると肉体が朽ちていかないことが疑問だ。
それに精神が必要なだけならば別に誰でもいいはずだ。
それこそ世間に知られにくい人間をターゲットにすればいいはずだが、それをしていない。
ゲーマーを無作為に選出し、その精神を捕らえているような感じだ。
仮に夢の中にゲームの世界が存在していたとして、その世界で生活をさせることに何の意味があるというのだ?
ただの愉快犯なのだろうか?それにしては配慮が行き届いてる気がする。肉体を維持するようなことをしなくてもいいはずだ。
眠っている人間が死を迎えてしまう事は回避されている。
それは長い間精神を閉じ込めるための処置なのだろう。
しかし最低でも5人はそういった人間がいる。
その人間に直接触れることなく肉体を維持し、精神を幽閉し続けるのは可能なのだろうか?
駄目だ、考えても解らないことだらけだ。やはり仮想世界が存在していると仮定し、その世界で情報収集をするという考えしか思い浮かばない。
「これ以上はなにも思いつかねぇな・・・」
俺は思考を投げ捨て眠りについた。
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