決戦の日 その1
・・・今日が決戦だっていうのに、僕の日常は何にも変わらないな。
黒金が学校を休んでいたため、僕の学校生活は何も変わらず、いつも通り一人で過ごすはめになった。
友達ができたらもうちょっと日常が楽しくなるもんだと思っていたけれど。本当に何も変わらない。
今日の夜って、葬り崖集合でよかったよな?
蝶野さんと黒金、二人の連絡先、ちゃんと聞いておけばよかったな。
放課後、とりあえずコンタクトをとれそうな蝶野さんの姿を探してみる。蝶野さんのクラスメイトから、『蝶野さんはいつも、放課後は図書館で居眠りしている』という情報を得たので、図書館へ向かう。
というか、あの人は図書館で居眠りしていて怒られないのだろうか?
たしかここだったっけ?
1年も通っている学校ではあるが、授業が終わったらすぐに帰宅する僕は、初めて図書館に訪れた。すると、そこには数十冊の本に囲まれて、机の上で横になって眠っている蝶野さんの姿があった。いやもう、これはどうして彼女は怒られないんだ?成績優秀だからといって、なんでもやっていいってわけじゃないだろうに。
近付いて本に埋もれている寝顔を拝見する。天使のような健やかな寝顔だ。その異様な光景は、起こしてしまうことに罪悪感を覚えてしまう程に神聖に感じられた。あまりにも気持ちよさそうに、美しく眠っている彼女を誰も起こそうとしないのは、そういう神聖な儀式感を醸し出せる彼女だからなのだろう。
「あ、あの蝶野さん?」
「・・・ん。もう下校時間なの?」ふぁーっとあくびをしながら、寝ぼけ眼で蝶野さんは起き上がった。
「あ、張間君。張間君も調べものに来たの?」
起き上がった蝶野さんは僕の存在に気づき声をかける。
「調べるって、何をですか?」
「それはもちろん、苦慮豹と、言霊使いについてだよ。敵について詳しく知っておく必要があるからね。」
蝶野さんの周囲の本をよく見てみると、『不思議な力を手に入れたら』という本や『超能力全集』、『未確認生命体図鑑』などの本が散らばっている。あの大きな黒豹や言霊使いについての資料なんてあったのだろうか。とりあえず、机の上が散らかっているのが落ち着かないため、散乱している本を片づけ始める。
「それで、蝶野さん、眠ってましたけれど、何かわかったことありました?」
「眠っていたとは失礼しちゃうな。記憶の整理整頓をしていたんだよ。いっぺんに情報を流し込むと頭の中が散らかっちゃうからね。私、超記憶能力者だから。」
地面にも本が落っこちている。確かに蝶野さんの頭の中、散らかっていそうだな。
得意げに鼻を鳴らしている蝶野さんを横目に僕は片づけを続ける。
「あれ?黒金君は?一緒じゃないの?」
「黒金は今日は妹のお見舞いに行ってて、学校は休んでるんですよ。」
「そっか。今でも自分のことを責めているんだね、彼。妹さんのところへ向かう前に、話しておかなきゃいけないことがあったんだけどな。」
蝶野さんは全てを知っているような口ぶりだ。
「蝶野さんって、黒金の妹のこと知っているんですか?」
「中学女子、葬り崖から転落で重体。3年前の新聞に載っていたの。黒金君に関する記憶も思い出して整理していたから、彼がどうして今朝妹さんのところへ出かけたのかもわかる。」
超記憶って、凄い能力だ。いや、その能力をここまで使いこなしている蝶野さん自身も凄い。
「話しておかなきゃいけないことって?」
「言霊使いの能力についてだよ。その能力には三種類のタイプがあるらしいの。自分自身を意のままにコントロールする身体能力アップ型。他者を自分の思い通りに操るコントロール型。そして自然現象を自在に操る預言者型。黒金君は身体能力アップ型。彼は他人が自分の思い通りに動かないという事を、身をもって知っているはず。そんな彼にコントロール型の言霊が使えるはずがないの。」
「それってつまり・・・」
「たとえ黒金君が『妹の意識が戻る』って何回言ったとしても、それは叶わないってこと。彼自身がそれは不可能なことだって、頭で理解してしまっているから。彼、落ち込んでないといいけれど・・・。」
「・・・黒金、今日ちゃんと葬り崖にくるかな?」
「どうかな。それは私にもわからないよ。」
そういうと蝶野さんは悲しげにうつむいた。
黒金の奴、今朝希望を抱いて家から出ただろうに。今頃どこかで落ち込んでいるのだろうか。だとしたら、僕が慰めてやらないとな。唯一の友人として。
「僕は、一人でも行きます。危険だと思うなら、蝶野さんは来ない方がいい。僕は黒金に命を救ってもらった恩があるんだ。一人だったとしても、黒金を殺そうとするあいつを退治しに行きます。」
「ちょ、行かないなんて言ってないでしょ?たいした能力もないくせに格好つけないでよね。今回のことに張間君を巻き込んだのは私なんだし、二人でも勝てる作戦考えておくから。それに、これは何の根拠もないんだけど、黒金君はきっと来ると思う。」
「そうですよね。それじゃあ、一度自宅に帰って、戦いに使えそうなものをかき集めて葬り崖に集合するという事で。」
「そうだね。私もしっかり柔軟体操しておかなきゃね。」
こうして、僕と蝶野さんは下校し、それぞれで戦いの準備を進めることにした。
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