小さな円陣
風呂から出た僕らは、ようやく黒豹の化け物を退治するための作戦会議を始めた。
「まずは、お互いの能力と特技を話してもらうとするかの。自己PRタイムというわけじゃ。まず、儂から行くとするかの。儂はストレスをため込んだ人間の力を引き出すことができる。それだけじゃないぞい。ストレスそのものを具現化して喰らうこともできるのじゃ。どうじゃ、凄いじゃろう。」
自慢気にパクが鼻を回す。
「でも、今回、パクがはやまって具現化させちまったせいで僕たち危ない目にあってるんじゃないか。」
「ぐ、し、しかしじゃ。もし儂が眼鏡小僧のストレスを放置しておったら、そやつは自ら命を絶つことになっておった。お主はそれでも儂を責めるのかの。」
「でも、何の説明もなしに勝手に具現化することないだろ。」
「まぁまぁ、起こったことは仕方ないよ。こういう時はこれからのことを考えるのが建設的だよ。」
僕とパクの無益なやり取りに蝶野さんが割って入る。
「じゃあ、次は私の番ね。私の力は超記憶。そのおかげで成績は体育以外の全ての教科で学年一位。体育も不得意なわけじゃなくて、学年二位。格闘スキルに関することも身体が覚えているから、ある程度の戦力にはなれると思う。」
え?蝶野さんってそんなに優秀なの?でも、超記憶の能力をもってすれば、当然のことなのかもしれないな。身体能力まで一流だなんて。体育の学年一位って、いったいどんな超人なんだ?
「次、黒金君の番ね。」
「俺は、小さいころから中学校まで剣道させられてた。一応、全国優勝したこともある。木刀でならそれなりに戦えけど、高校では部活してなかったから、腕は鈍っているかもしれん。それと、体育は学年一位で身体能力はそれなりに高いと自負している。あと、能力についてはよくわからないが、言霊使いらしい。」
体育学年一位はお前か。でもまあ、僕が屋上から落ちかけた時の身のこなし、確かにあの身体能力の高さは超高校生級である。
「言霊の力については儂が説明しよう。言霊使いが発した言葉は、文字通りの結果を現す力をもつ。その力の度合いは、言霊使い自身が信じていることであれば、その力ほ強くなり、自信がない発言の力は弱くなる。先ほどお主が何気なく『あつい』と言った後に身体が熱くなってしまったのは、まだ眼鏡小僧がうまく言霊をコントロールできていないからじゃ。」
「何気なく発した言葉であんなに熱くなるんだったら、黒金が自信を持って発した言葉の力って・・・」
「自由自在に力をコントロールできるようになりさえすれば、苦慮豹を倒すのも容易じゃろうな。」
言霊って、そんなに凄い力だったのか。
「さすが体育学年一位の黒金君だね。私の出番なさそうだよ。」
・・・なんだか蝶野さんって、体育で学年一位取れなかったこと、根に持っている・・・みたいだな。
「じゃあ次、張間、お前の番な。」
「僕?僕は・・・最近、少し、大きい声がでるようになった。」
と、ポツリと言う。
「そのセリフを小さい声で言っては説得力がないのぉ。ほっほっほ。」とパクが小ばかにする。
「い、一応腕立てとか腹筋はそれなりにやっているし、パンチとかキックでダメージを与えるくらいならできる。」
だめだ・・・思いつく能力も自慢もない。
「張間、お前は控えメンバーとして協力してくれ。」
「うん、私と黒金君でなんとか豹の力を無力化して、その後パクが食べるっていう作戦がいいかも。大きな豹が相手なら、それなりに動けないと危険でしょ?」
黒金と蝶野さんが必死でフォローしてくれているが、そのフォローがグサグサと胸に突き刺さる。
「ふぅむ、しかし、一番防御力が低いのはバタ子かもしれんの。」
「私?一応受け身も防御術もいくつか記憶しているけど、どうして?」
「フワフワ頭と眼鏡小僧は暴力を受けた経験を有しているからの。二人は儂の能力開発で傷の治りを少し早めることができる。バタ子は攻撃を受けた記憶はあるかもしれないが、蝶野麗として実際に暴力を振るわれたことはないじゃろう?」
それって、僕も新しい能力を身に着けることができるってことか?
それでも、僕の能力って『少し大きい声』と『打たれ強い身体』って、ほんと大したことないな。我ながら無念である。
「そっか、記憶だけじゃ、頑丈にはならないんだね。」
パクの言葉に蝶野さんは少し残念そうにうつむいた。
「それならお互いの弱点をフォローするように立ち回ればいい。俺がみんなの盾になる。今回の件は俺個人の問題なんだから、二人は危険を感じたら逃げることだけ考えたらいい。」
「まあまあ、仲間がいることで発揮される能力もあるというものじゃ。いくら言霊使いといえどもお主の力はまだ不安定じゃ。一人で戦うよりも仲間がいた方が良いじゃろう。」
「黒金、お前が何と言おうと、役に立たなくても、僕はお前に命を救ってもらった恩を返すって決めたんだよ。危険だからってお前ひとりで戦わせたりしない。」
黒金の言葉に僕とパクが反論すると、蝶野さんも同じ気持ちであると言わんばかりのドヤ顔をして見せた。
「決まりじゃな。儂の思い違いでなければバタ子にもまだ秘められた力があるはずじゃ。バタ子は眼鏡小僧が心配するような女子ではない。」
「そうそう、パクちゃんの言う通りだよ。体育で学年一番だからって、その他の教科で学年一番の私を心配しなくてもいいんだよ。」
やっぱりだ。蝶野さん、間違いなく体育の学年一位を黒金に取られたことを根に持っている。
「ね、パクちゃん、決戦はいつになるの?」
「おそらく明日の夜には、苦慮豹は眼鏡小僧の居場所を探し始めるじゃろう。街中で戦うのと被害が大きくなるからのぉ。葬り崖で待ち伏せておいた方が賢明かもしれんな。」
「じゃあ、決まりだね。明日の夜、葬り崖で!!」
そういうと、蝶野さんは右手を差し出した。僕もそれに続き、蝶野さんの手の上に右手を重ねる。その後で黒金も観念したように右手を重ねた。最後に黒金の手の上にパクが乗り、僕らの円陣は完成したのだった。
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