美男、美女、濡れ場
学生寮へ戻ると、僕の部屋の前に人影があった。
部屋の前で待っていたのは、ロングTシャツと短パンに着替えた蝶野さんだった。
「良かった、無事に帰って来れたんだね。張間君と、黒金君ならきっと大丈夫だって、信じていたよ。本当にありがとう!」
蝶野さんは僕に駆け寄り、今朝のように僕の胸ぐらに掴みかかった。
「ち、蝶野さんって結構荒っぽいんですね、いや、でもこれはこれで・・・」
風呂上りなのだろうか、軽くピンでとめられたシャンプーの良い香りが漂ってくる。
僕好みの恰好だ。すごく可愛い。
「はー、あっついあっつい。誰かさんを乗っけて自転車こいできたせいですっごいあっついわ。」
僕が鼻の下を伸ばしていると、後ろから黒金の声が聞こえる。
「あ、いや、こ、こここれは、べべべ別にそんなんじゃないよ。」
「うんうん、私と張間君はそんなに親しい関係じゃないから安心して。黒金君の表情、悲しさは薄れたけれど、嫉妬が浮かび上がっているよ。とにかく、自殺を思いとどまってくれたようで何よりだね。」
蝶野さんは、無邪気に僕と黒金の心をえぐる発言をする。
「あ?誰が誰に嫉妬してるんだ?もう一度行ってみろおっぱい星人が。」
黒金の目がほのかに青くなる。なんだこれ、なんでこんな修羅場っぽくなっちゃってるの?
二人って初対面、ですよね?
「聞こえなかったのかな?黒金君が、張間君と親しそうにしている私に――」
蝶野さんがそういいながら黒金の鼻を人差し指で触れる。
「熱っ!!」
言葉と同時に、蝶野さんは瞬時に一指し指を引っ込めた。
「そういや、本当に体が火照ってきやがった。・・・なんだこれ」
そう言うと黒金は気を失ってしまった。
「なるほどのぉ、ここまで言霊の力が強いとは。末恐ろしい奴じゃ。ひとまず、こやつの身体を水で流して冷やすのじゃ。」
パクに促されるまま、キッチンミトンで黒金を風呂場に運び、服を脱がせる。
「へー、さすが剣道全国大会優勝の実力保持者。体育の成績学年トップの身体は仕上がってるね。私がこれまで見てきた中でもトップクラスの良い身体だよ。うん、胸・肩回りの筋肉がしっかりしているから、割れた腹筋との対比が綺麗な逆三角形になっている。下半身のトレーニングもしっかりされているね。それに、弾力も程よい。」
蝶野さんはキッチンミトンで黒金の服を脱がせながら、彼の身体を分析している。その映像がなんだかいやらしい。
「は、はやく冷まさないと。」
パンツを脱がそうとする蝶野さんを制止して、早く水をかけるよう促す。
水をかけると、とたんにジューっともの凄い勢いで湯気が上がる。
「なにこれ・・・水蒸気まですごいアツい・・・、でも、しっかり冷まさなきゃね。」
そういうと蝶野さんはロングTシャツを脱ぎ、白のタンクトップ姿になる。そして、徐に短パンを脱ぎ始める。
エ、エロイっ!!
なんだか、蝶野さんと二人でサウナに入っているみたいだ。
「ち、蝶野さん、そんな、大胆な・・・」
昼に見た春色おパンティも見事だったが、夜の白色おパンティも実に見事である。
って、あれ?タンクトップを着ているのにブラひもが見えない。
こ、これは伝説の・・・ノーブラっっ!!!!
「私のことなら気にしないで、張間君も遠慮せずに脱いじゃっていいんだよ?張間君のその服、べちゃべちゃだよ?」
蝶野さんに促され、僕もシャツとズボンを脱ぐ。黒金の身体と比較されるのが嫌で、渋々と。
洗濯機に脱いだ服を入れ、パンツ1枚で風呂場に戻る。
蝶野さんの服は汗で濡れ、透けかけている。その横には水も滴るいい男、しかも僕が洗濯機に行っている間にパンツまで脱がされてしまっている。黒金、目を覚ましたら怒るだろうな。
二人とも張りのある滑らかな肌をしている。健やかに成長した高校生の肉体は男女ともに艶めかしい。おまけに二人とも荒い息遣いをしており、見てはいけない場面を見ているような気持ちになる。
二人の魅力にひるんで後ずさりした僕は、迂闊にも固形石鹸を踏んでしまった。ドジ丸出しで転んでしまう。黒金と僕の身体で蝶野さんをサンドイッチするような形になってしまった。
「あ、あの、ごめんなさい、蝶野さん。す、すぐにどきます。」
慌てて立ち上がろうとしたが、「待って」と蝶野さんに手を引かれ、再び倒れ込む。咄嗟についた手が蝶野さんのありがたいふくらみを捕まえる。
「あ、ち、蝶野さん・・・」
つい声が裏返る。どうして呼び止めたのだろう。まさか、僕のことを・・・?
「張間君、鼻血出てるよ。大丈夫?」
蝶野さんの言葉で僕は現実へ引き戻される。なんて情けない姿を見せてしまったんだろう。すぐさま立ち上がった僕は鼻をつまみながら蝶野さんに手を差し出す。
僕に続いて蝶野さんも立ち上がる。
「ち、蝶野さんって、かなり貞操観念ぬるいですよね。一応、僕も黒金も男子なんですけど。」
「あ、ああ。ごめんね。高校生の頃って、こういうの場面にドキドキしたりするんだっけ?思い出した思い出した。私ね、こういうの慣れっこなんだ。」
「え?それって、どういう?」
蝶野さんって、結構遊んでいるのか?そういう風には見えないけれど。でも、そう考えると男の裸に動じなかったり、男の前で薄着になるのに抵抗がなかったりとつじつまが合う。
「あー、えっと。私自身は未経験なんだけれど、過去に経験したというかなんというか。」
「超記憶じゃよ。」
説明に困っている蝶野さんを助けるように、さっきまで鼻歌を歌いながら体を洗っていたパクが会話に割って入ってきた。
「バタフライっ子、つまりバタ子は先祖代々の記憶を有しておる。人間を構成する37兆個以上の細胞の中には先祖代々の記憶が眠っておる。超記憶はその細胞の中から記憶を引き出す能力のことじゃ。要するに、バタ子は先祖全員の記憶の全てを、先ほど経験した出来事かのように思い出せるのじゃよ。」
パクの説明に「まあ、概ねそんなところかな」と蝶野さんはほほ笑んだ。
「凄い能力じゃろう?まあ、バタ子にはまだ秘密がありそうじゃが、それは後々じゃな。超記憶と言霊使いがいれば苦慮豹相手でも勝算はありそうじゃ。風呂から出たら作戦会議をするとしよう。」
「ん・・・」
程よいタイミングで黒金が目覚める。
「張間、ごめん、また迷惑かけちまったみたいだ・・・なっ!?」
蝶野さんの姿を確認した黒金は、慌てて大切な部分を隠す。正常な反応である。
「心配しなくて大丈夫。今夜のことはすぐに忘れてあげるから」と超記憶能力者の蝶野さんはほほ笑んで見せた。
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