束の間の青春

白矢山からの帰り道で、僕は今日あった出来事のすべてと、僕自身の過去について、黒金に話した。


自分の過去について話をしたのはこれが初めてである。別にそこまでは話す必要はなかったけれど、黒金の過去を知って、自分だけ話さないのは不公平な感じがした。


「そんなことがあったんだな。お前の平凡な生活、壊しちまって悪かったな。」


「いや、結局のところ、行動したのは僕自身なんだし、お前が責任を感じることはないよ。」


「なあ、今回の件は俺一人に任せてくれないか?俺の問題で、お前まで危険にさらすことはできない。万が一やられたとしても、相手があの子猫なら本望だ。」


「残念ながら、それは無理な相談だ。僕は命の恩人兼唯一の友人を見殺しにできるような無神経なやつじゃないんだよ。」


僕の返事を聞くと、黒金は「ほんと、お前って変な奴だよな」と笑った。


「なあ張間、お前さ、俺を死なせないって約束してくれただろ?俺も、一つお前に約束するよ。俺と友達になったこと、後悔させないようにしてやる。」


友達とか、青春ってこんな感じなのだろうか。なんだか全身がむず痒くなるような照れくさい会話だ。だけれども自然と笑顔になる。


そんなむず痒い会話をしているうちに、僕たちは黒金の自転車が止めてある地点まで戻っていた。

黒金は自転車にまたがり「じゃあ、また明日作戦を立てよう。」と別れを切り出す。

きっと、黒金はもう家に帰れない。あんなことがあって、帰れるわけがない。帰しちゃいけないんだ。


「黒金、一つ頼みがあるんだけど。」


「ん?どうした?」


「僕はもう歩き疲れたんだよ。学生寮まで送ってくれないか?」


「張間、お前・・・。」


「そうだな、もし送ってくれたら、風呂と食事くらいの礼はしよう。それで足りなければ寝巻きも貸してやる、洗濯機だって使っていい。なんなら、しばらくの間、僕の部屋で寝泊まりしてくれても構わない。なあ、頼むよ。クタクタなんだ、自転車に乗せてくれ。」


僕のわかりやすい心遣いに感動したのか、黒金は涙をぬぐって近づいてくる。そして、僕の首に腕を回してヘッドロックした。


「お前ってやつは、憎いねー。このっこのっ。」


「ちょ、べちゃべちゃして気持ち悪いだろ。やめろよ。」


まさに青春をこじらせたようなやり取りである。

「ほっほっほっ、やはり、感情に身を任せるのも時には良いものじゃな。」と、パクも嬉しそうに眺めている。


こうして、僕は黒金の自転車の後ろに乗せてもらい、戦闘の準備を整えるため、学生寮へ向かうことになった。パクは獣の唾液がつくのが嫌だという理由で、僕の頭ではなく自転車のハンドルにちょこんと座っている。


「なあパク、戦闘の準備を整えるって、なにかいい作戦でもあるのか?」


「そうじゃな、大まかに説明するとな、お主らに苦慮豹と直接戦ってもらうしか方法はないのじゃ。しかしながら、勝算は十分にある。苦慮豹を生む正直者の言葉には言霊が宿る。あれほどの巨大なストレスじゃ。眼鏡小僧はかなりの力を秘めているのじゃろう。当の本人は自覚していないようじゃがの。それに、力を貸してくれそうな者に心当たりがある。まあ、百聞は一見にしかずじゃ。細かいことは後ほど風呂に入りながら説明するとしよう。今の主らは臭くてたまらんからの。」


そういうとパクは長い鼻を結んで見せた。


「ハハハ、悪い悪い」と、黒金はパクの皮肉に素直に謝っている。


言霊、いったいどういう力なのだろう。あの化け物に対抗できるほどの力なのだろうか。戦いのことを考えて、僕はブルブルと武者震いをした。

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