黒豹の正体

「なるほど、こいつは言霊(ことだま)使いの苦慮豹(くりょひょう)じゃな。思ったよりでかいのが出よったわい。」


「く、黒豹(くろひょう)!?」


「『くろ』ではなくて『くりょ』じゃよ。いろいろと思い悩むという意味じゃ。眼鏡小僧にはピッタリの獣じゃな。」


「そんなのどっちだっていいだろ!ってか、黒金!大丈夫か!?」


僕が呼びかけると、黒豹に咥えられた黒金は腕をプルプル振るわせながら、グッと親指を立てて見せた。まだ生きているらしい。状況は絶望的だけれども。


青い目の黒豹は、グルルル…と地響きさせるように喉を鳴らしている。あの目って、黒金の目と似ているような・・・。でも、味方ではなさそうだ・・・だって黒金、喰われちまってるし、なんかすごい流血しているし。


黒豹の口からポタポタと黒金の血液がしたたり落ちている。


いや、これはもうあれだわ。詰んだわ。


「黒金、さっき絶対にお前を死なせないなんて言ったけれど、その約束は守れそうにない。どうやら、僕もお前もここで死ぬことになりそうだ。」


身長180cm程あるであろう黒金の身体が、猫に咥えられた鼠のようである。どう頑張っても勝てっこない。


「まあ、そう結論を急ぐでない。あれにはまだ子猫の意識が残っているはずじゃ。」そういうとパクは黒豹の方へパタパタと飛んで行き、黒豹に話しかけた。


「おい、猫、大切そうに咥えておるその小僧を話してやらんか。」


パクが黒豹に声をかけると、黒豹は黒金の身体を僕の方へ向かって放り投げた。黒金の身体が凄い勢いで飛んでくる。なんとか黒金の身体を受け止めることはできたが、力負けして僕の身体も黒金と共にザザーっと地面を転がった。


「いてて…、大丈夫か?」さっきまで黒豹に咥えられていた黒金の身体を確認するとどこにも傷はなさそうである。その代わりにべちょべちょだ。どうやらさっき滴り落ちていた液体は黒金の血液ではなく、黒豹の唾液だったようだ。


この大きな黒豹が、さっきの子猫だなんてとても信じられない。けれど、僕はすでに神様を頭の上に飼っている。きっと、これも事実なんだろう。


「ああ、大丈夫みたいだ。これくらいの痛みには慣れている。」そういうと黒金は徐に立ち上がった。「それに、あいつは俺の大切な友達らしい。」


黒金はこの状況をある程度把握できているようだった。いやいや、適応能力半端ねえな、この人。


黒豹は黒金の無事を確認するように彼の周りを一周し、黒金を一舐めする。黒金もその黒豹をさっきまで死んでいた子猫だと認識しているように、頭をなでている。


「感動の再開のようじゃが、あまり長いことこうしてはおれぬ。猫が暴走する前にこちらも戦闘の準備を整える必要がある。その猫は、眼鏡小僧のストレス分身じゃ。そのうち暴走して、主人を殺す。この場合の主人とは、眼鏡小僧のことじゃな。生きるためにはこやつを無力化しなくてはならん。これほどの大きな獣じゃ。あの小さな猫ではすぐに意識を奪われる。ここまで自我を保てているのが不思議なくらいじゃ。」


そっか、確かこのカウンセリングの最終段階って、具現化されたストレスとのバトルしなきゃならないんだっけ?いやいや、あんなの、どうやったら勝てるんだよ。


「猫よ、いつまでそうしている。自我を保てているうちに、眼鏡小僧から離れた方がよいのではないか?」


パクがそういうと、黒豹は一度咆哮してから葬り崖から飛び出した。落下していく黒豹の背中から黒い大きな翼が生え、飛んでいく。あの化け物、羽まで生えるのかよ。


現実が、どんどんあり得ないものに染まっていく。もう僕が大切にしていた平凡な日々は戻ってこないのだろう。ため息とともに肩を落とす。


落とした肩にべチャっとした感覚がした。振り返ってみると、黒金が僕の肩に手をのせている。


「あいつとバトルをするって、どういうことなんだ?それに、あの宙に浮いている喋るぬいぐるみはなんなんだ?わかる範囲で状況を説明してくれるとありがたいんだが。」


さすがに黒金の適応能力でも状況説明は必要なようだ。それもそうか、当然だ。


「わかったよ。わかったから、とりあえずその臭い手をどかしてくれ。」

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