2月13日 始業前3
「よう和樹。英語の課題やってきた? できれば休憩中に写させてもらいたいんだけど」
「おいおい、まさかあの課題やってないのかよ。やってないバレたら相当ネチネチ言われるのが目に見えてるのに。まったく、どうせまた俺がやってきていること前提なんだろ」
4人目の囲碁部員である駿介が教室に駆け込んできたのは、時間としてはホームルームが始まるタイミングだった。
「いやいや、不可抗力だって。課題に必要な教科書を昨日置きっぱなしにしちゃってさ」
駿介は机の中に鞄の中の荷物をしまいながら言った。和樹も分厚い囲碁の本を机に置きっぱなしにしているが、駿介も教科書類はほとんど机の中にあるようで、しまう荷物の量はさほど多くない。
「というか、今日もギリギリだったな」
今日はまだ担任が来ていないからよかったものの、駿介の登校時間はこんな調子がここ数日続いており、昨日などは遅刻してきて怒られたばかりだ。
しかし駿介は悪びれた様子もなく、オーバーなリアクションで体をぶるっと震わせる。
「今朝は雪も降ってたし無茶苦茶寒かったじゃん。なかなか布団から出れなくてさ」
雪が降ってることに目を覚ましていたなら、走らなくても十分間に合うだろうに……。走ってきたわりには駿介に疲れている様子はなく、むしろ清々しい表情をしているので、案外走るためにギリギリを狙っているのかと、和樹はそんな変な邪推までしてしまう。
どちらか言うとひょろっとした和樹と違って、駿介はスポーツを嗜んでいそうな見た目だ。実際その見た目から、入学直後に体育会系の部から熱心に勧誘を受けたらしいのだがそれを断って囲碁部に入部したのだった。
ただ駿介は特段囲碁が得意というわけではなく、春のころは何とか囲碁を打てるというレベルだった。和樹が不思議に思って囲碁部へ入部した理由を聞いてみたら、運動は苦手で文化系の部ならどこでもよかったらしい。
「あっ、やべ。汗が冷えてきて本格的に寒くなってきた。中にもっと着込んでくればよかったな……」
そこまで言ってから駿介は一段声を小さくして続けた。
「やっぱり女子も着込んでくるよな。着込んでほしくないなー」
「何を期待しているかは知らないけど、これだけ寒ければ着込んでくるだろう。俺らと違って下なんてスカートだし」
話のたどりつく先が見えてきた和樹は気のない返事をする。しかし駿介は逆に食いついてきた。
「そうそう、この冬空の下でもスカートってのがいいよな。短いスカートの子が階段なんかで前を歩いていると、見えないって分かっていても、こう、ぐっとくるものがあるよな」
「お前ほどじゃないよ」
「またまた素っ気ない態度しちゃって。そうか、笹山さんがいるから目移りなんかしないってわけか。笹山さん可愛いもんな。そんなら笹山さんが一緒にいるときでも、スカートとズボンじゃ雰囲気違うでしょ。ましてやミニなら言うことなしでしょ」
周りの女子からの若干冷たい視線を向けられているように感じつつ、返答しかねて内心ヒヤヒヤしていた和樹は、担任が教室に入ってきたことで解放された。
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