2月13日 登校

 朝の寒さを伴った風が、舞い散る雪を運んできたことに気づいた。

 和樹が見上げると曇り空が広がっていたが、迷い込んできた雪がチラチラと降ってくるだけで積もる様子はなかった。

「この辺じゃ今年はまだ雪降ってなかったね」

 隣を歩いていた彼女はそう言って、雪を包み込むように手を胸のあたりまで持ち上げた。その小さな手のひらに着地した雪は、通り抜けるように音もたてずに消えてしまった。

「今年の初雪、和君と一緒に見られるなんて思わなかった」

 そうだねと和樹が同意すると、彼女は雪を集めるようにしていた手を下す。

 和樹はその手を遠慮がちに握った。

 彼女の手からは、溶けていった雪の冷たさとそれ以上のぬくもりが伝わってきた。

 いつまでも彼女の隣にいたいと思える瞬間。これが現実ではなく夢じゃないかという不安も、冬の冷たさが吹き飛ばしてくれる。

 笹山弥生と一緒に登校するなんて、つい一か月前までは想像でしかなかったのだ。……いや、あの頃は想像と呼べるような具体的なことは考えていなかったから、ただの憧れだろうか。


 歩いている駅からの直線道路を、行き止まりまで歩いて曲がればやがて大通りに出てしまう。そこまではほんの少しの時間だが、和樹にとって一番気に入っている時間だ。

 学校の中に入ってしまうと、弥生との一定以上の接触は周りの目を意識してしまうので歯がゆかった。あるいは二人きりになれるような完全にプライベートな場所だと、まだ付き合い始めて一か月に満たない和樹たちは、相手を意識し過ぎてお互い固さが抜けなかったからだ。

 弥生を含め、気心が知れた四人で活動している部活中ももちろん楽しいのだが、学校までの道のりを二人きりで歩くことは心地よい緊張感のあるイベントだ。それが毎日のことでも、飽きることはなかった。

 大通りに出る瞬間、弥生とつないでいた手が離れてしまう。

 暖かな居場所をなくした左手を、和樹はポケットにしまいこんだ。

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