彼女は甘くなかった
斉藤海
2月17日 最終下校時刻
あの朝とは違い、机の上に分厚い本はなく、かわいらしく包装された箱が置かれていた。その中身がチョコレートだとすぐに分かってしまった。
2週間後には期末テストも控えている。クラスメイトは勉強のために帰ったであろう教室に、一人たたずむ。これほどまでに静かな教室を意識したことはなかった。
公園で本庄と別れてから家でさんざん迷った挙句になぜこの教室に来たのか、自分でも理由が分からなかった。今日は学校をさぼったというのに、放課後にやってくることを皮肉に思う。
いっそこのチョコレートに嫌悪感を抱けたらどんなに楽だろうか。
しかしそんな気分にはならない。腹が立つとしたら、チョコレートを目の前にした自分の態度だ。
バレンタインデーからの4日間を振り返って、何が最善の選択だったのか、今となってはもう分からないが、考えるべきはこれからの態度だ。
どんな対応をしても、選ばなかった選択に未練が残ってしまうであろう優柔不断な自分。
そんな不安を振り払うために、しかし丁寧に包み紙を取り除き、出てきたチョコレートを口にふくむ。
想像よりやわらかく、とろりとした食感の後にきたのは、予想外の苦さだった。甘さを期待していた自分に気づいて、つい苦笑いを浮かべてしまう。
自分が見たいものだけを見せてくれる、自分が思った通りに周りも動いてくれる、そんな甘い世界はどこにもないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます