寿司屋『百合の花』

negipo

第1話

 さーちゃんに馬乗りになっていた私の性器から赤い雫が落ちて、なだからな彼女のおなかを汚した。傍らに跪いて、その無精卵をてのひらで潰す。くち、と湿った音が響いて、そのまま彼女のからだを撫でた。ふるさとの山々みたいにやさしいかたちを描くさーちゃんのからだが、赤く夕陽を背負ったのを見て、私は悲しくなってあははと笑う。

「さーちゃん」

 さーちゃんは、笑わない。目を見開いたまま、日が落ちていく空を見上げている。もう冷たくなってしまった彼女の手を取って、私はいつもみたいに温めようとした。

 彼女と私は同郷で、ずっと仲良しだった。ふるさとを出る時に、またいつか会おうねと約束して、その言葉通りにおとなになってからまた出会った。私は彼女から遠く離れた暗いところで、誰にも理解されずにぼろぼろになってふるさとに帰ってきて、それはさーちゃんも同じだった。赤く目立つ傷が走る頬を撫でて、私は泣きながらこれからずっと一緒に居ようと言って、彼女は昔と変わらないきれいな水草のような笑顔で笑っていた。

 固くなってしまった彼女のからだをずうっと撫でている。何も見ていない目を眺めながらくちづけをする。視神経の伝達物質がそのはたらきを徐々に止めていって、学校で詳しくそのことを習っていたはずなのに、私はすごく怖くなる。

 そして視界のすべてが奪われて、私は再び彼女の名前を叫んだ。さーちゃんは最後に見た真っ白い頬のまま、私の前にあらわれて、私は安心してその手を取る。

「さーちゃん、ごめんね」

 彼女は答えない。

「ごめん、さーちゃんの赤ちゃん、産めなくてごめんね」

 彼女は笑わない。日が射して、彼女の頬が赤くなった。さーちゃんが下を向いて、小さくありがとうと言った気がした。私と彼女は抱き合って、夕陽に溶けていく。

 やがて夕闇が消えて、あたりはふたたび、まっくらになる。


「っていう話はどうですかね、へい! しゃけといくらお待ち」

「大将、食べにくいよ」

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