立ち入り禁止の旧校舎【犯罪、暴力、流血】

 数年前に旧校舎の立ち入りは完全に禁止された。

 前々から立ち入り禁止とはされていたけど、こっそり侵入して遊ぶ生徒は多かった。学校も把握していながら、軽い注意程度しかしていなかった。


 現状を変えたのが、少し前に起きた事件。

 旧校舎で友達と遊んでいた生徒が、ダストシュートに転落した。

 一緒に遊んでいた友達の証言、残された血痕などからダストシュートに落ちたのは明白。だけど、不可解なことに転落した生徒の姿はなかった。


 以来、その生徒を見た人は誰もいない。

 その代わり。


「プリン、2個足りなかったらしいよ」

「こわっ、好きだったもんね」

 転落事件直後、保健室が荒らされて、赤い色で『痛いよ、助けて』と壁中に書かれる事件があった。

 続いて、給食も1人分足りなくなる現象が今も続いている。

 転落した子名義で図書室の本が借りられることもある。

 事故以来続く現象、見つからない姿。

 旧校舎には、誰も近寄らなくなった。






 ただ1人、私をのぞいて。

 こっそりと旧校舎に侵入して、壁を不規則なリズムで数回たたく。

 物陰からすっと人影が出てきて、互いに笑顔になる。

「おかえり」

 気づかれないように潜めた声で、控えめな笑顔で。

「今日、プリンだったよ」

 こっそり持ってきた今日の給食を渡したら、笑顔が輝いた。

「やったぁ、ありがと」

 幸せそうに食べ始める姿を眺める。

 計画は成功した。こうして笑顔を見られるのだから。

「これ、読み終わったから」

 床に置いてあった本を拾って渡される。

「了解、返しとくね。読みたいのある?」

「んー、推理小説かな」

 大好きで大切な友達。

 いつだったっけ。

 この子が両親からひどい虐待をされていると知ったのは。

 『平気』と笑ってくれていても、体中の傷が危険を物語っていた。

 先生に相談しても、まともに相手にしてくれなかった。

 誰もこの子を助けてくれない。

 私が助けないとと思った。

 この話を持ちかけた際は『うまくいきっこない』と返された。

 私は本気だ。成功させる。

 決意は確固だった。内心、失敗してもいいと思っていた。事態の深刻さを伝えることはできると思ったから。

 決行の日。

 私とこの子、なにも知らない他の友達数人といつもみたいに遊んで、友達が見ている前でこの子はダストシュートに落ちた。

 下にはあらかじめクッションをしいていたから、衝撃は弱まる。騒ぎの中、クッションの下に隠していたナイフで血を垂らす。

 あとは私たちが先生を呼んでいる間に、クッションと身を隠すだけ。

 事件の動揺が弱まってきた頃、私も行動に出た。

 興味本位で旧校舎に来た誰かがこの子を見つけたら、一巻の終わり。

 ナイフの傷もあるこの子を治療する道具もほしかったから、保健室から盗むついでに荒らしてメッセージを書いた。

 私のおこづかいだけで食事をまかなうのはきついから、給食を盗んで届けている。

 空いた時間にこの子がヒマをしないように、図書室の本も貸している。最初は私の本を貸していた。試しにこの子名義で借りたら思いのほか怖がる人がいて、たまにやっている。人目を忍んで図書室で貸し借りするのは大変だ。でも退屈な思いはさせたくない。

 私がしたのは行動だけ。ウワサは一切、流していない。

 でもどこからか、まことしやかにそれっぽいウワサはたった。イタズラ心で誰かが作ったんだと思う。

 不気味がられた旧校舎には、誰も近づかなくなった。

 おかげでこの子は、旧校舎で平穏な生活を送れるようになった。両親の虐待なんていう、理不尽な不幸から逃れて。

 この生活が続けられたらいいのに。

 続けられたらよかったのに。

 私は、やりすぎた。

 不気味で老朽化の進んだ旧校舎は、取り壊しの話があがったらしい。

 もしそうなったら。

 どうやってこの子を守ればいいの?

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我闘亜々亜掌編集 カクヨム版 我闘亜々亜 @GatoAaA

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