Stand Up
明
Stand Up
僕は少しほっとした。これでもう楽になれる・・・。
最初は友達に誘われたから部活に入っただけだった。
でも入部したとき、周りは中学からやっていたやつばっかりで正直焦った。
僕は体育で多少やっていたくらいで、特別うまくもなかったけど、目も当てられないくらいへたくそでもなかった。
でもやっぱり悔しかった。
昔から良くも悪くも負けず嫌いで、プライドが高かった僕。笑われたくない、負かしてやりたい、その一心で部活に夢中になっていった。
もちろん、部員とはいいライバル、仲間っていう関係は崩さなかった。
高校生になってまで自分から敵を作るほど幼稚じゃなかったから、心の中の黒いものは誰にも見せなかった。
でも、その黒いものは僕を強くした。もともと運動神経はいい方だったし、なんでも器用にできた。
でもそれだけじゃない。家では筋トレをして、自主練もした。朝早く学校に行って一人で練習をした。もちろん日々の部活も人一倍頑張った。
そのおかげもあってか、僕は他の部員よりもうまくなって、チームのエースになった。
うれしかった。
でも、そこから何かが変わっていった。いつも頼られるようになって、周囲からの期待が辛かった。
そんなときだった。
「タクミ。ちゃんと勉強しているの?この間の模試、ひどかったみたいね。何度も言うようだけど、私立と浪人はやめてちょうだいね。」
「わかってるよ。」
三年になった僕はいろんな意味で追い込まれ、自分で追い込んでいた。家族も、勉強も、部活も、部員でさえも、すべてが僕の敵だった。
そして僕はケガをした。全治三か月。
目前に控えた大会に向けての練習でのことだった。
初戦の相手は前回優勝校。
でも士気は高かった。僕ら三年にとっては最後になる大会の試合だったから。
その中で僕の心の中には諦めと、負けたい、やめてしまいたいという気持ちがあったのだと思う。
油断した。
練習ももう終盤で、大分疲れていたし、意識も朦朧としていた。昨日の寝不足がたたったかな、と思っていた。
―危ない―
そう思ったが、もう遅かった。
病院に直行し、そこで僕の部活は終わった。
不思議と寂しくも、悲しくも、悔しくもなかった。そこにあったのはただの痛みと、開放感だけだった。
結局僕みたいなやつに部活っていうむさくるしい青春は似合わなかったんだ。
ケガをしたあと、友達みんなから「大丈夫?」と声をかけられた。
僕は苦笑いをしながら、うん、とうなずくだけだった。
部員や顧問にも励まされたりもしたけど、どうでもよかった。
放課後は何となく部活に行った。練習を見ているだけっていうのはすごく不思議な気がした。
僕は部外者になった。
ある日の練習の休憩時間に部員のハルトが声をかけてきた。
「終わったら、いいか?」
「ああ。」
ハルトは僕を部活に誘った友達だった。
「なあ、タクミ。なんでも言ってくれよな。お前も悔しいだろうし、その気持ち、わかるからよ。な、俺ら親友だろ。」
「ああ、サンキュ。」
突っ込みどころが多すぎた。
僕は悔しくもないし、分かったつもりになってもらいたくなかったが、今は面倒だから流そう。
そんでもって親友・・・?
正直考えたこともなかった。そもそも親友ってなんなんだ?
ただの友達、部員としてしか見てなかった。確かにバカなことしたり、いろいろと語ったりしたけど…
「おい、聞いてるか?」
「…ああ。」
「だから、な、お前もがんばれよ。」
そう言ってハルトは僕の肩をたたいて去っていった。
僕はいったい何を頑張るんだ?
翌日からも僕は部活を見に行った。特に意味は無いけど、毎日の習慣はなかなかなおらず、気が付くと僕の足は部活へ向かっていた。
一応、元エース、というだけあって、行けばアドバイスを求められたりもした。
それなりに答えて、部活が終われば家に帰る。
なんともどっちつかずな毎日だった。このままじゃいけないと心の中では気づいていたけど、僕は見えないふりをした。
試合の日、僕も会場に行った。みんなとは別行動をして、観客席で見た。
いよいよだ。
出場しないのに緊張して、手に汗をかいた。
始まった。
ああ、ダメだ、
いや、まだだ、まだいける、
頑張れ、頑張れ、頑張れ…。
いつの間にか僕は出したこともないような大声を出して応援していた。
エースが抜けるという大ダメージを負ったチームは決定力に欠け、相手との差も歴然だった。
けど、みんな諦めてなかった。声をだして、汗を流し、前を見続けていた。
ごめんな…。
僕が謝ることじゃないのかもしれない。自意識過剰だと笑われるかもしれない。
でも申し訳なくなって、悔しくて、どうしようもない気持ちになった。
外側の世界に立ってみて初めてすべてに気が付いた。みんながどれだけ練習しているか。
流れる汗をそのままに、今も踏ん張っていること。
そして、今までは僕もその中にいたこと。
自分の事だけを考え、何も見えていなかったこと。
僕は泣いていた。
僕は今から何を頑張れるのだろうか。
勉強だって言ってしまえば簡単だけど、大学へ行って何をする?僕には何が残っているのかわからなくなった。
“終わりは始まり”なんて言うけれど、終わりは終わりでしかない。
何かが終われば自然と何かが始めるわけではない。
そんな綺麗ごと、今の僕には何の役にも立たない。
結局僕は僕の力で立ち上がって何かを始めるしかない。
今の僕が頼れるのは、今はまだ立ち上がれていない僕自身だけだから。
一度は転んでしまった僕だけど、きっとまだ、立ち上がれるから。
Stand Up 明 @haru_natsu_aki_huyu
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