アイドル寿司一本勝負

アイドル寿司一本勝負

「寿司はアイドルなんです!」

 そう高らかに告げると、会場は困ったようにどよめいた。


――


 1時間前、私は頭を抱えていた。

 全国ネットのアイドル特番、ここで勝ったら一躍メジャー、その大一番が料理勝負。お題は寿司だった。

 私は寿司が。回る寿司は回転寿司、回らない寿司はパック寿司。そう思っていて友だちに笑われたぐらい。別に世間知らずじゃなく、寿司に興味がないのだ。

 一口大の酢飯に刺身を乗せて、きゅっと握って一塊にしたもの。そのどこが有難ありがたいのか分からない。握るだけならアイドルにもできる。握手会で鍛えた腕を舐めないでほしい。米と刺身が食べたいなら刺身定食でいい。私は寿司が分からない。だけどお題は寿司なのだ。

 ずらりと並んだネタも、どれがいいのか分からない。ウインナー寿司じゃダメかな。ダメだろうな。結構美味しいのにな。そもそも何でアイドルなのに寿司なんだ。


 否、違う。アイドルなのに寿司、じゃない。アイドル寿司なのか?

 ワサビの刺激みたいに閃いた。刺身定食と寿司の違い。主役ネタとご飯の関係。刺身定食では別々のそれが、寿司では一体になっている――


 ――アイドルそのものだ。


 どんなネタおんなのこも、シャリファンがいないと寿司アイドルになれない。一粒一粒は小さな米粒みんなが支えてくれるから、私はアイドルでいられる。


 ああ、そうか。寿司が

 一口大のシャリに支えられ、けれど控えめすぎない大きさのネタ。握る力は強すぎず、弱すぎず、握手会のように。

 無心でシャリを取り、ネタに乗せ、握る。

 私の寿司アイドルがそこにあった。


――


「というわけで、寿司とはアイドルそのものなんです!」


 静まり返る会場。

 やがて拍手が起こり、徐々に大きくなる。観客、審査員、スタッフまでも。


「キミのアイドル魂、確かに届いた」


 審査の大物歌手が言った。隣で伝説レジェンドアイドルが涙ぐむ。

 この瞬間、私は確かにアイドルの真髄に触れていた――。


 それはそれとして寿司の味は惨敗で、私はリベンジのため寿司屋の門戸を叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイドル寿司一本勝負 @yakiniku_tabetai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ