第2話
私も今年で二四歳、もう、決して若いわけじゃないと思っています。
たぶんですが、私は人並み、か、それ以上の苦労をしているような気がしますが、そんなことは人と比較もできなければ、たとえ比較できても意味はありません。自分はそんなに頭がよくないし、と自覚がるのが救いでしょうか。
若いうちの苦労は買ってでもしろ。
昔の人は言っておりますが、あれは絶対ウソです。苦労なんかしなきゃ、しない方がいいに決まっています。
特に若いうちは、要らん苦労は時間の無駄、不要な人生の回り道っていうのが私なりの結論。
しかし、人生は苦労と困難の板挟み、誰でも陥るイバラの道、私、現在、厳しいイバラの真っ只中です。それでは、このイバラに入っちゃったらどうするか?
答えは簡単、とにかく早く、あらゆる手段を使って脱出あるのみでしょう。それが私の考えです。だから今、私はここで働いているわけです。
高校を出て、昔からの夢を実現のためって両親説得、東京出てきて修行の世界へ、そこまでは順調。稚拙であっても、スタートは私が書いたシナリオ通りではありました。
しかしながら前述しました物語、入った事務所が最悪、誰を恨もうか、これは会社の社長と高校の就職課の人達でしょうか。
文句を言っても、私達のような田舎者、私も先生達も甘い「東京物語」の甘美な響きに簡単に騙されてもしょうがないこと。
これも、地方と都会の文化格差減少、インターネットなどの発達によっての全国レベルの情報共有化したとは世間はいいましても、現実は別、やはり東京は憧れの別世界。一回限りの青春時代、どうせ夢を見るなら、華の東京を目指しました。
で、上京。楽しかったのは十日間、あとは降り注ぐ誘惑の甘い罠に慢性金欠病。最初は空気の悪さに頭を抱えようとも、数ヶ月経ったら、もう、立派な都会人を気取っておりました。
時、経てば、お決まりコース、同じ事務所でできた友達の紹介で六本木界隈のキャバクラ「スマイルレディ」というお店で週三日のアルバイトホステスに身を投じておりました。
しかしながら、夜の労働は週三日から四日、四日から五日に増加、土、日を除く毎日勤務に落ち着いておりました。もちろん、この時点ではヘアーメイクのお仕事と夜のお仕事を両立していたのですが、ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、現在のランパブ状況がここ一年ちょっと続いてしまったのです。
このカラダを一気にお金を稼ぐ武器として使わなくてはいけないのは辛くもありますが、私のポリシーであるところの「最低のどん底」からの脱出は、あくまでも迅速にお金稼ぎ重要と割きり、今のランジェリー・パブに腰を落ち着かせることにしたのです。
もちろん、吉原方面のソープも面接に行きましたが、あまりの私のギャラの良さに恐れをなしてソープはやめました。銀座は営業ノルマの厳しさに衣装だ、美容室だの細かい決め事、それにお客様いちいち、どっぷり気を使うのも鬱陶しく断りました。
「まぁ、泡に沈むほどの借金でもないか」
と、私の悲しい資金繰り計画からオッパイ揉まれて頑張れば一年、長くても二年でチャラという計算ができていましたし。
事実、この九百万円弱の借金、親にも言えず見栄張って、体も張っての間もなく終了とは嬉しい限りでございます。
そうなんです。
トータル八百八十万円なりの請求書が大きく私の人生を狂わせました。
男に騙され、保証人のハンコをポン。気がつけば男はドロンで残ったのは借金の肩代わり。なんて、バカなことはありません。男に貢ぐよりは、男に貢がせるすべは知っているつもりです。
キャバクラ「スマイルレディ」で生活の糧を稼がねばって困窮生活からの脱出を図っていたあの時期です。そこで出会ったのが、神崎よし子とネットワーク・ビジネス、アムウェイやニュースキン。神崎よし子は後日、この名前は偽名だったことがわかりましたが。
★
この「女」は渋谷の大学に通っているという割には、派手過ぎるし、全然落ち着き過ぎた気がしましたが、そう、今、思えばです。後の祭りです。
で、入店後、なんかのキッカケで親しいほどではないですが、よく化粧品のこととか、流行りのメイクのこととかいろいろ盛り上がっていました。一応、私はヘアーメイクの事務所勤も興味深々、私に色々質問をしてきました。なんか、これもかなり不自然だったのかもしれません。が、これも、今、思えばの話です。そう、後の祭りです。しつこいですけど。
この店を紹介してくれたお友達は銀座の系列店に転勤で、周りにそんな仲良しがいるわけではないので、気軽に話かけてきた神崎よし子と仲良くなるのに時間はかかりませんでした。
そんな彼女に目を見張ったのが女子大生にあるまじき良い服、良いジュエリーに良いバッグ。なんで、と思いながら、
「きっと、パパでもいるんだろう」
と流しておりました。
でも、ある日、そんな話がお客様の席ででた時、彼女が言ったのは、
「いやぁだー、パパなんて絶対いないわよぉ。私の贅沢の秘訣はアムウェイですぅー」
とのこと。そんなお金持ちならクラブなんかでバイトしなくてもいいのにとも思うのですが、なんでも、彼女的には「クラブ」の人間関係こそがネットワーク・ビジネスの顧客作り=同僚ホステスにお客様、営業活動には事欠かない宝の山ということでした。
なんか納得でした。
お金に目がないホステスと、女に目がないお客様、ここ、「クラブ」を舞台にしたネットワーク・ビジネスの「網作り」は確かに良い環境な話かもしれません。
それで、私も、この神崎よし子さんのディストリビューターとしてアムウェイ参加、目指せパール、プラチナ、ダイヤモンドのお金持ちということになりました。
スターターキットと呼ばれる新人用販売キットが手元に揃い、私も、さぁ洗剤から化粧品にシャンプー売るわよって決意も新たに顧客開発って結構、盛り上がっておりました。
このタイミングで、神崎よし子さんより、なんか、アムウェイの会社の方に細かいコミッションを貯めておく口座を作る必要があると言うことで、保険証か住民票を持ってきてね、と頼まれました。
住民票をわざわざ取りに行くのも面倒くさいので、何の疑問も脳裏をかすめず会社の健康保険証を渡しました。
何やら、ちまちまコミッションを通常の銀行振込にするより、アムウェイ社内口座にプールしておいた方が金利が数パーセントお得と言うことで、
「これアムウェイで一獲千金の常識よ」
などと、親切過ぎるご進言がありまして。
「美紀ちゃん、一応、社内口座を作っておく手続きしておいた方が良いよ、絶対。
まぁ入金指示段階で現金かAIB(アムウェイ・インターナル・バンクのもっともらしい略語でした)どっちか選べばいいしさ。あんまり、こまめに振り込まれても、なんか、使っちゃたりしちゃってスグになくなっちゃうこと、よくあるでしょ。そそ、私、明日渋谷の本部行くさ、みんなの手続きは私がついでにやってきてあげるよ」
と言われれば、私、確かになるほど納得。
「それじゃお願いします、よし子さーん。どうも、ありがとう!」
などと、お礼まで言ってしまいました。
これで、一件落着。
落着したのは神崎よし子の方でした。
これが運命の分かれ道、二十四時間後には、もちろん、ちゃんと保険証は返ってきましたが。
まずは、親からって洗剤を売りました。少々、お値段は張りますけど良く落ちます。母も、
「これ、なかなかいいわねー」
と、喜んでおりました。
もちろん、あの内藤さんにはタンマリ購入していただきました。友達何人かに電話したり、それなりに積極的に取り組んで、スタートとしては順調と神埼よし子も感心しておりました。でも、お店のお客様をお誘いするのは、ちょっと気になり躊躇の連続、やっぱり洗剤売り的イメージは私の女的多少のプライドが邪魔をするようでした。
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