くっころさんとすし

藤村灯

くっころさんとすし

 くっころさんは異世界から来た女騎士なんだそうだ。


 ほんとうの名前はリリーだかエリーだかいう長ったらしいものらしい。

 間違えると怒るし略すと無視されるので、ぼくはくっころさんで通している。

 下宿の押し入れに棲みついているのを見付けて以来、一度も素性を追求したことはない。怖いから。


 本人は魔王を追ってこの世界に来たといいはる。でもぼくは、くっころさんが何かと戦っている姿をまだ見たことがない。

 ことの真偽はどうでもいいから、早く出て行ってほしいと願い続ける毎日だ。


 今日は先生の引越しの手伝いをしたので、ふところが温かい。くっころさんを誘って回転寿司へ向かう。

 ひとりで良いものを食べると、必ずあとでバレて、ねちねちと嫌味を言われるからだ。


「くッ、殺せ!」


 いきなりだ。口元を押さえて涙目になっている。


「なに、どうしたの?」


「大量のワサビが……だがこのリエリエンヌクォルツ、毒では死なん! 倒れるなら剣で戦い抜いた後にだ!」


「じゃあビントロサビぬきで、と」


「くッ、殺せ!」


「今度はなに?」


「サビ抜きなどと! このリエリエンヌクォルツ、女子供と侮られるなら死を選ぶ!」


「……ビントロサビ入り追加、と。あ、くっころさん、せっかくお寿司屋さん来たんだから、カレーとか頼むの止めてくださいよー」


「くッ……好きな物を食す自由まで奪われるとは……殺せ!」


「はいはい、いいですよ好きにしてください。……充分食べました? この辺であがりにしましょうか」


「くッ、殺せ!!」


「まだなにかあるんですか?」


「あと一皿でもう一度景品が貰えるというのに! このガッカリ感……殺せ!」


「マンゴー杏仁でいいです?」


「チョコバナナパフェで!」


「遠慮しないのな!?」


 景品のストラップを二つ手に入れ満足顔のくっころさんは、まだぼくの部屋の押し入れにいる。

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くっころさんとすし 藤村灯 @fujimura

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