第4話

「第一回キャラクター紹介ー!」

 そよぎはそう言ってひとり、パチパチと手を叩いている。

「いえーい! のってるかーい!」

「いや、急にそんなこと言われても……」

 まず、毎回思うのだが、先に打ち合わせをしておいてもらわないとノリを合わせようがないのだが……。

「まあ、打ち合わせとか以前にこれを書いてる作者の脳内にも、この話のオチのビジョンがないから、打ち合わせようがないという部分が大きいね」

「毎回、行きあたりばったり過ぎる……」

 プロットとか書くの苦手なタイプなんだよな、この作者……。

「とはいえ、今回はちゃんと【とくべつへん】っぽい内容を考えたんだよ!」

「それがキャラクター紹介ってわけか……」

 確かにキャラクター紹介というアイデアは悪くないかもしれない。よく考えると、そもそもこの【とくべつへん】とやらは、「本編を読んでいない人でも読める」というコンセプトで書いているはずなのに、これだけ読んでいても本編がどんな内容なのかまったく伝わっていなかったからな……。

「というわけで映えある第一回キャラクター紹介の対象はこの人だぁ!」

 そよぎはそう叫び、いつの間にか背後に現れたステージの上に掌を向ける。

 しかし、そのステージの上には誰も立っていない。

「………………」

 そのステージに向かって、そよぎはバタバタと走っていく。

 そして、彼女はその勢いでステージの上までよじ登ろうとする。

 しかし……

「ステージが思ったより高い!」

 ステージの高さは、小柄なそよぎの身長とそんなに変わらない程度。

「ふんっ!」

 そよぎはステージに手をかけて懸垂の要領で登ろうとするのだけれど、すぐに地面に足がついてしまう。そよぎの身体能力の低さが露呈してしまっている。

「ほら、押し上げてやるよ」

「あ、ありがとう」

 僕はそよぎの腰のあたりを持ち、そよぎをステージに乗せる。

 ……角度的に、そよぎのスカートの下が思いっきり目に入ったが……まあ、ここは冷静に見なかったことにしよう。

 僕は深呼吸をしてから、ステージの上に居るそよぎを改めて見上げる。

 ステージの上に居るそよぎは肩で息をしている。そよぎも僕と同じように何度か深呼吸をして、呼吸を整えてから言った。

「というわけで、第一回のキャラクター紹介は、私、『愛原そよぎ』だよ!」

「茶番がなげえよ」

 このステージは必要だったのかと心底問いたい。


「というわけで、第一回目の紹介キャラクターに、私を持ってくるというサプライズ采配だったわけだけど」

「サプライズのサの字もないが」

「皆様に、この超絶可愛い最強美少女そよぎちゃんの魅力をご理解いただくためのPVを用意しました!」

「PV?」

「では、どうぞ!」

 そよぎが持っていたリモコンのスイッチを押すと、ステージの背後に、どこからともなくスクリーンが現れ、そこに映像が投影される。

 僕はまずは黙ってそれを見ることにする。


 どこかの室内。

 制服姿のそよぎが画面中央の椅子の上にちょこんと座っている。

???「まず、名前を教えてもらえますか?」

そよぎ「はい、愛原そよぎです」


(インタビュー形式なのかな?)

 画面の中でインタビューは更に続く。


???「年齢はいくつですか」

そよぎ「えっと……十六歳です」

???「若いですね」

そよぎ「ありがとうございます」

 そう言って、そよぎははにかむ。

???「次にスリーサイズを教えてください」


「は?」

 何を聞いているんだ、このインタビューは。


そよぎ「スリーサイズ……? えっと……あ、スタバではだいたいショートです」

???「スリーサイズとは、スタバで注文するときの飲み物の大きさのことではありません」

 そんなやりとりをしている画面の下に、

「B89 W61 H88」

 というテロップが入る。


「やはり、でかい……じゃなくて……本人も覚えていないのにいったい誰がこの情報を……」

 僕のツッコミに応えるはずもなく、映像は流れ続ける。


???「彼氏はいますか?」


(さっきからなんなんだ、この質問は……)

 僕は流石に違和感を覚え始める。


そよぎ「その辺りはネタばれになってしまうので……」


「急にネタばれを考慮し始めた……」

 まあ、確かにその辺は、ぼかしておかないとね……。

 ここまでの質問は百歩譲ってPVとしてギリギリのラインで許されると思えるものだった。

 しかし、この次の質問は――


???「初体験はいつですか?」


「は……」


そよぎ「初体験……? あ、PSVRはまだ体験してないです」


 そよぎが頓珍漢な答えで質問をかわす。いや、かわしたというかたまたま逸れただけだと思うけど……。


???「では、経験人数は0ということですか?」

そよぎ「経験人数……? 経験値を稼ぐゲームは面倒なのであんまり好きじゃないです」


 僕はほとんど確信めいた予感を持ち、ステージの上によじ登る。


???「では、服を脱いでもらいましょう」


「はい、これAVのインタビューゥゥゥゥッ!」

 そう叫びながら、僕はそよぎの手からリモコンをひったくり、画面を止める。

「ああ、何してんのー!」

「何してんのーはこっちの台詞だ! このばか!」

 なに、AVのインタビューに出てるんだ。そんなライトノベルのヒロイン、前代未聞だわ。


「あたしの傑作のお披露目を邪魔するとはな……」

 僕は背後から聞こえた声に反応し、振り返る。

「お、おまえは……」

 そこに立っていたのは、ツインテールに金髪、青い瞳をした幼い風貌の少女。

「このあたし、高岡凪さまの映像作品のな!」

「はい、知ってたー! 声で丸わかりぃ!」

 ていうか、こんなアホなPVを取るのは、てめえだけだ。

 凪は少し拗ねた様な顔で言う。

「なんだよ……あくまでAV風のPVだったから……この後も、せいぜいに水着になるのがマックスのグラビアアイドルレベルの露出度に留めておいたというのに……」

「そういう問題じゃないから」

 正直水着姿はちょっと見たかったが、凪が本当にそんな健全なレベルで止めているか判断がつかないので公開するのは躊躇われる。

「あたしの笑いのセンスがいかんなく発揮された爆笑もののPVだったというのに……」

「おまえの笑いのセンスは信用していない」

「ちくしょー。せっかく作ったのに……」

 凪はうつむいたまま叫ぶ。

「お笑いとちょっぴりエッチなことが好きなロリ系美少女(クォーター)の、このあたし、『高岡凪』が頑張って作ったのに!」

「おまえのキャラ紹介になってるじゃねえか」

 というわけで、第一回キャラクター紹介をお送りしました。

 また来週ー。






「え! 私のキャラクター紹介、終わり?!」

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