第2話

「『【とくべつへん】愛原そよぎのなやみごと』、なんとラブコメ週間ランキングで3位になったよ!」

「え……?」

「2017年2月3日現在、ラブコメ週間ランキングで3位だよ」

「え……待って……」

「いやあ、思ったよりもランキング伸びて良かったね」

「ていうか――」



「星24しかないのに3位になれるって……」



「………………」

「………………」

「あれでしょ……第二回のコンテストにみんな投稿してるからだから……」

「………………」

「カクヨムに人が居ないからじゃないから!」

「わかった、ごめん。僕が悪かった。この話は無しだ」

 閑話休題。


「いやあ、それにしても3位なんて、すごい久しぶりにとったね」

 そよぎは、あっけらかんとした調子でそんなことを言う。

「『おめ俺』なんてずっと上位に居るのに……」

「……え?」

「どちらも第一回コンテストの特別賞組なのに……どこで差がついたのか……」

「いや、あのさ……」

 僕は平然と語るそよぎに向かって言う。

「他作品のタイトル出して大丈夫なの……?」

 いくらメタ空間とはいえ、他作品のタイトル出すのはまずいんじゃないだろうか……。いや、前回の方がすげえヤバいこと言いまくってたけど。

「ふふふ、なんと今回はちゃんと作者の和久井先生に許可もらって来たから大丈夫だよ」

「まじかよ……」

 そこまでしちゃったか……。

「コミュ障の作者が手を震わせながら、ツイッターのダイレクトメール送って許可もらったから大丈夫」

「そういう裏事情は言わなくていい」

 リプライはまだしも、ダイレクトメール送るのってマジで緊張するんだからな。

「というわけで、『おめ俺』に関しては、言いたい放題だよ」

「いや、別に言いたい放題ではないからな」

「というわけで話を戻すけど――」

 そよぎは僕に向かって語りだす。

「『おめ俺』にあって、私たちに足りないもの……それが何か解る?」

「僕たちに足りないもの……?」

 そんなもの言い出したらきりがない気がする。

 『おめ俺』は、女装を始めた主人公が巻き込まれるトラブルのネタについて、すごくよく練られているし、一度読み始めると止まらなくなるようなストーリー構成も見事。女装がテーマということで、化粧や服装に関する細やかな知識も読んでて面白い。何より、キャラクターが魅力的だ。ちなみに僕は鰍が好きです。

 正直な話、初めて読んだときは、この作品には勝てないと本気で考えたものである。

「わからない?」

「まあ、多すぎてどれを上げたらいいやら、という意味ではわからないな」

「答えはね」

 そよぎはあくまで真顔で言う。

「主人公が女装してないからだよ」

「………………」

「ライトノベルの主人公が女装するって言うのは、特にラブコメなら定番だからね。そこをつきつめた『おめ俺』はやはり強いよ」

「………………」

「というわけで、幸助くん、女装」

「おまえは、本当にそれでいいのか……」

 ラブコメの主人公だから女装すればいいというものではないのだが……。

「じゃあ、今から女装してもらいます」

 なぜか当たり前のような顔で言うそよぎ。

「そんなこと言われて、『よーし、どの衣装を着ればいいんだ?』なんて言うと思うか?」

「え? 着ないの……?」

「着るわけねえだろ……」

 僕はそんな女装なんてするキャラじゃない。僕が女装なんてしても、美少女に進化するなんて到底不可能である。

「なら仕方ない。力ずくだよ」

「力ずくだって?」

 いくら体力に自信がない僕でもそよぎに力ずくで負けるとは思えないのだが。

 僕は思わず鼻で笑ってしまう。

 そんな様子を見たそよぎは言う。

「幸助くん……君は勘違いをしているようだね」

「勘違い?」

「力ずくって言っても腕力でってことじゃないよ」

 そよぎは言う。

「今、ここがどこだか解ってる?」

「ここ?」

「私たちは今どこに居るの?」

「えっと……」

 改めて問われると戸惑う。僕たちは今どこに居るかだって……?

「ここはね、メタ空間だよ」

「メタ空間」

「本編とは切り離されたメタ時空なんだよ」

「ああ。そういう設定なんだ」

「そう。作者が横着して地の文で説明していないわけじゃないんだよ」

「……そうか」

「横着してるわけじゃないから」

「解ったから」

 そして、そよぎは続けて言う。

「ここはメタ空間……言いかえれば、ここでは私はなんでもできるんだよ」

「いや、その理屈はおかしい」

「やろうと思えば、今から幸助くんを『おしおき』という名の処刑にかけることもできるんだよ」

「なんでわざわざグロ方向に走るんだよ」

「さすがに処刑はかわいそうだから温情措置で女装で許してあげるね」

「僕が一体何をしたって言うんだ」

「というわけで、はい、幸助くん。これ使うよ」

「なんだそれは……?」

 そよぎはどこからともなく宝石の様な石を取り出して言った。

「これは『進化の石』だよ」

「『進化の石』……?」

「具体的には『かみなりのいし』だね」

「ポケ○ンかよ」

「これを使えば、幸助くんも女装美少女に進化できるはず!」

「そんなわけ――」


 ……おや!?  幸助のようすが……!


「は?」


 ちゃらら♪ 

 ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃー♪

 ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃー♪

 ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃー♪

 ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃー♪


「これは進化BGM?!」

 まじで美少女に進化させられてしまうのか……!

 僕は自分が何者かに変化しているのを感じながら、そよぎの方を見た。

「あれ……? 美少女……?」

 そよぎは何故か困惑した顔をしている。

「うおおおおおお! 進化するううううううう!」

 進化するってこんな感覚なのか……!

 そして、僕は――



 おめでとう! 幸助は――



「Bボタン、ぽちっとな」

 


 幸助のへんかがとまった



「は……?」

 僕の進化が何故かキャンセルされる。

 そよぎがBボタンを押したようだ。

(いや、Bボタンってなんだよ)

 一応、心の中でツッコミを入れてから、僕は改めてそよぎに向きなおる。

「なぜ、キャンセルを?」

「ごめん……」

 そよぎはなぜか泣きそうな顔で言った。

「いくら、進化の石があっても、ピカチ○ウじゃないとライチ○ウにはなれなかったんだね……」

「………………」

「私、そんな程度のことも解ってなかった……」

「………………」

「ごめんね………」

「………………」



 なんだ、この空気……。

 勝手に進化させられそうになって、勝手にキャンセルされて、挙句泣かれそうになっている……。

「僕は美少女になれなかったんだな……」

 ピカチ○ウじゃないとライチ○ウにはなれないように、美少女に進化できるのは鈴村将晴くんであって、渡辺幸助ではなかったんだな……。

「………………」

「………………」



「いや、別に僕、美少女になんてなる気ないんだが」

「まあ、確かにこの作品の美少女成分は私だけで充分だったね」

「なんか納得しがたいけど、もうそういうことでいいよ」

 僕はそよぎとの間に、なんとも言い知れないしこりを残したのだった。




「というわけで、最後に宣伝だよ!」

「お、宣伝。それは大事だな」

 そもそも、一冊でも多く売る為に、わざわざこんなもんを書いているのだから、きちんと宣伝しておかないとな。



「というわけで、こんなに面白い『おめでとう、俺は美少女に進化した。』は2017年2月10日にカドカワBOOKSより発売です! みんな買ってね!」

「そっちの宣伝かよ」

 『愛原そよぎのなやみごと 時を止める能力者にどうやったら勝てると思う?』は2017年3月30日にファミ通文庫から発売です。

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