【とくべつへん】愛原そよぎのなやみごと
雪瀬ひうろ
第1話
「『愛原そよぎのなやみごと 時を止める能力者にどうやったら勝てると思う?』、3月30日にファミ通文庫から発売決定だよ!」
「……え?」
「発売決定! いえーい! いえーい!」
「いや、待って……!」
僕はアホほどハイテンションになってる美少女、愛原そよぎに向かって言う。
「そういうメタ的なノリで行っちゃう感じ?」
「メタ……?」
「ああ、そよぎにメタとか言っても解らないか……」
「メタって……」
そよぎは可愛らしく小首を傾げながら言った。
「メタフィクション(Metafiction)とは、フィクションについてのフィクション、小説というジャンル自体を批評するような小説のことだね。 メタフィクションは、それが作り話であるということを意図的に(しばしば自己言及的に)読者に気付かせることで、虚構と現実の関係について問題を提示するんだよね」
「愛原そwiki?!」
コピペしてんじゃねえよ。
「【とくべつへん】だから大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのか」
「今回の私たちは本編の私たちとは関係ない。いいね?」
「ええ……」
というわけで、今回は【とくべつへん】でお送りします。
しかし、もうここまではっちゃけきってしまった以上、最後までこのノリで押し通すしかないだろう。
僕はタイトルを改めて確認する。
「Web版とタイトル変わってるな……」
サブタイトルに『時を止める能力者にどうやったら勝てると思う?』が追加されている。
「もともとのタイトルはちょっと地味だったからね」
「なるほど……」
「ちなみに、これは編集部からの提案だよ」
「ふむ……」
そよぎは声を潜めて言う。
「つまり、このタイトル変更で売れなかったら編集の――」
「売れたら編集部のおかげだね!」
ものは言い様である。
そよぎは更に話を続ける。
「まあでも、せっかくタイトル変えるんだったら、もっと攻めてもよかったかなとは思ってる」
「攻める? このタイトル変更はこれ以上にないくらい攻めてると思うけどな」
当たるかどうかはともかく、少なくともインパクトは強くなっている。内容も多少は想像しやすくなった。そういう意味で、これは良いタイトル変更だと思うのだが。
「いや、世の中の売れ筋を考えたらこうすべきだったんじゃないかって」
そよぎはどこからかペンを取りだし、紙に何やら書き始める。
そこに書かれていたのは、
『異世界で始める、愛原そよぎのなやみごと 時を止める能力者にどうやったら勝てると思う?』
「どっから異世界が出てきた?!」
「幸助くん。今の売れ筋は異世界だよ。むしろ、異世界って入れとけば売れるんだよ」
「どんだけ読者なめてんだよ」
異世界ってついてれば、売れるわけじゃないからね?
僕は言う。
「この作品のどこに異世界要素があるんだよ」
「おっと、間抜けは見つかったんだよ」
「……なんだよ」
「この作品のラストは実は――」
「おい、やめろ。それネタバレだろ」
1巻も発売されてないのに、とくべつへんで物語のラストのネタばらしとか斬新過ぎる。
「というわけで、異世界要素はあるから。気になったら買ってください」
「露骨な販促」
その辺の設定が明かされるまで物語が進むかどうかは未知数である。
「まだ、甘いな」
「凪」
どこからともなく、ちんちくりんロリ少女の凪が現れて言う。
「本気で売りたいなら、そよっちのタイトルでも、まだ甘い」
「……どういうことだよ」
「本気で売るなら、こうだろ」
凪はペンを握り、紙に何かの文字を書く。
そこに書かれていたのは……
『Re:ゼロから始め◯異世界生活愛原そよぎのなやみごと 時を止める能力者にどうやったら勝てると思う?』
「完全にパクリィィィッ!」
「異世界ってつけるなら、これくらいしないと」
「やり過ぎぃ!」
「ゼロ書とかゼロ魔とか、ゼロなんたらってつけとけば売れるんだよ」
「見通し甘過ぎぃ!」
僕は更に根本的なところにツッコミを入れる。
「何にもゼロから始める要素ないですから!」
「それはどうかな?」
なぜか凪は冷静に僕のツッコミを受け流す。
「だってこの物語のラストって――」
「それも、ネタバレだろうが、やめろ!」
だからまだ1巻も出てないって言ってるよね?
「あんたたち、いい加減にしなさい」
「風音」
メガネをかけた少女。風音がどこからともなく現れる。
「さっきから聞いてれば、あんたたちはまだ甘いわ」
「……甘い?」
「本当に売れたいんだったら手段なんて選んでられないわ。だったら、つけるべきタイトルは、こうでしょ」
風音がペンを握り、紙の上に綴った文字は……
『ソードアートオンライン』
「遂に原型なくなった?!」
パクりなんてレベルじゃねえ!
「完全にアウトだろうが。他作品のタイトルそのままだし!」
「エアプか? パクり元の作品には、間に『・』入ってるから」
「パクりって認めちゃってんじゃねえか!」
「外伝がいっぱいあるからその中に紛れるわよ」
「紛れねえよ! 全員スーツの就活会場に私服で行ったときのレベルの違和感だよ!」
僕は更に続けて言う。
「大体、この作品、ソードもアートもオンラインも出てこねえよ!」
「浅はかなり……」
「は?」
「本当にこの作品にソードもアートもオンラインも出てこないと言える?」
「……いや、そんな作品じゃないし」
「出てくるかもしれないわよ。作者、2巻以降のプロット、未だに迷ってるし」
「それは本当に言っちゃダメだろ……」
「途中で唐突にソードでアートなオンライン編が入らないという保障はない」
「ちゃんとラストまでの大筋は決まってるから……」
僕には震える声を抑えるのが精一杯だった。
いや、今回、結構、無茶苦茶なことを言ってしまったような気がするのだが、これ、怒られないだろうか……。色んな人に……。
僕の心を読んだのだろうか。そよぎは僕の肩に手をおいて、言う。
「大丈夫だよ」
「何がどう大丈夫なんだよ……」
「どうせ――」
そよぎはにっこりと微笑んで言った。
「どうせ、ラブコメランキング上位は他の書籍化作者の作品で埋まってるから、この話も大して読まれないよ」
「それはそれで問題だよ!」
面白かったら星をください……。
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