第22話 遊び人は誰だ?
気持ちを落ち着けてから片付けをしていると従兄弟のルーくんからLINEが来た。
『心愛も春休みだろ?もっと遊びに来いよ。母さんも遊びに来いって。』
ケイちゃんも自分のスマホを見ている。そういえば私の前でスマホをいじったりしないなぁ。
そんなスマホを見ていたケイちゃんが顔を上げた。
「大智が優ちゃん連れて来いって言ってるけど。」
「え?」
大智くんってバイト先のあの遊び人っぽい人だよね。
「可愛い子だし紹介しろって。どうする?」
優ちゃんはあんな遊び人になびくような子じゃないから連れて行っても大丈夫なんだけど…。行く必要ある?
私の心を読んだようにケイちゃんが口を開く。
「俺はココとバイト先に行きたい。もうバイト先のココは猫だって分かったからいいだろ?」
ちょっと悪戯っぽく笑うケイちゃんが憎たらしい。
「でも…どうしてそんなにバイト先に…。」
別に私が行かなくたって…。なんとなく私が知らないケイちゃんの世界って感じがさ。
そう思っている私に意外な返事が返って来た。
「俺の大事な場所だからココも来て欲しいんだよ。」
え…っと。そういうことサラッと言っちゃうのが、やっぱりさ。そうやって上手いこといっつも女の子に言ってるんだろうな…。
いくらそう思ってみても思わぬ言葉に嬉しくて自然と顔が緩んでしまう。
「なんだよ。その顔。嫌なのかよ。」
「そういうわけじゃ…。」
だってどんな顔していいのか分からないんだもん!
「ココは明日予定あるのか?優ちゃんにも聞かなきゃダメだよな。」
「あ、ルーくんから遊びに来いよって。桜さんも来てって言ってるらしいよ。」
「瑠羽斗かよ。まぁ桜さんが言うならな…。」
ルーくん完全に下に位置付けされてるよね…。
「じゃせっかくだからバイト先で作ったやつをテイクアウトして持って行こう。それなら両方の予定をクリアできるだろ?」
ピザまだ食べたことないよな?って言葉につられて自然と顔がほころぶ。
「うん!じゃ優ちゃんにも聞いてみるね。」
ウキウキしているのが全面に出ちゃってたみたいでケイちゃんが苦笑してる。
「やっぱりココはこうじゃなくっちゃな。」
頭をグリグリされてクククッと笑うケイちゃんもいつも通り。ずっとこんな日々が続くといいのになぁ。
優ちゃんにも連絡して大智くんの希望でランチとディナーの間の休憩時間に行くことになった。
優ちゃんと待ち合わせしてバイト先で合流した。お店に入ると今日は私服姿の大智くんが「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」と出迎えてくれた。
「じゃ俺は作るの手伝ってくる。」
ケイちゃんは来て早々にキッチンへ行ってしまった。うちでもご飯を作ってくれる時は本当に楽しそうに作ってくれてる。
バイト休ませちゃってていいのかなぁって思いがまた頭をもたげそうになった。
「ほら優ちゃんは俺と隣で座ろう。」
大智くんがさっそく優ちゃんにちょっかいをかけていた。
「私は心愛ちゃんの隣がいいです。」
「でもケイがココちゃんの隣に座りたいんじゃない?」
「それは…。」
ケイちゃんのことを持ち出されて優ちゃんが困っている。
まったく…この遊び人は…。
「大智くんは誰でもいいんでしょ!優ちゃんに色目使わないでください。」
遊び人はこれだから…。
そう思って少しチクリとする。誰でもいいんだろうな。ケイちゃんも。
ううん。誰でもいいというか、正確には妹の私以外の誰でも。
「失礼だなぁ。誰でもよくないぞ。ココちゃんや優ちゃんみたいな可愛い子じゃなきゃ。」
にっこり笑って、もう優ちゃんの手を握ってる。
「誰にでも言ってたら信用してもらえないですよ?」
優ちゃんがほんわか口調でピシッと言った。さすが優ちゃん。
「ま、俺は適当だけどさ〜。ケイは不器用だからな。ココちゃんも大変だね。」
「え…何を…。兄妹だって…。」
大智くんにも言ったはず。それに私がケイちゃんを好きなんて知らないはず。
ドキドキしていると大智くんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ま、兄妹って言い張るならそれでいいんだけどさ。あんなにココちゃん一筋な感じなのに、それ隠してそうだからな。」
驚いて助けを求めて優ちゃんを見ると優ちゃんも頷いていた。
「それには私も賛成です。ケイちゃんはココに激甘だもん。」
「それはお兄ちゃんだからで…。そもそも遊び人だから女の子の扱いも慣れてるだけなんでしょ?」
「ハハハッ。ケイが?遊び人?」
ものすごくおかしかったようで大智くんは大笑いしている。
だって言うことがいちいち慣れてそうだし、普通の人はパパに言われたからって、あんなことしないでしょ。
ケイちゃんのお色気だだ漏れな態度を思い出して恥ずかしくなった。
ひとしきり笑い終わった大智くんが笑いながら話し出した。あれだけ笑ってまだ笑ってるってどういうことよ。
「ケイって不憫な奴だな。ココちゃんだけだよ。あんなに甘ったるい顔するのも、あんな態度なのも。」
「そんなわけ…。」
あの慣れた態度が私だけなんて無理があるにもほどがあるよ。
「じゃココちゃんといて別の女の所に行ったことあった?ココちゃん放ったらかしにしたことある?」
それは……ない。そう言われると朝帰りするとばかり思っていた初日から今日まで全然ない。
「ね?ココちゃん一筋。」
それは…そうなのかな。でも…。そうだとしても………それはやっぱり妹だから。
嬉しくなりかけた気持ちも、妹だからという結論に達すると少し寂しくなった。
「おーい。ココ手伝って。」
キッチンの方へ呼ばれて私はケイちゃんの方へ向かった。
なんだろう。すごく会いたかった。
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