第21話 スキンシップ

 夕ご飯。いつもみたいにケイちゃんが作ってくれた。そこまではいつも通り。

 だけど…。

「こっちに座るの?」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど…。」

 いつもは向かい合って座るのに何故か今日は隣に座るケイちゃん。そして椅子が近いです!

「ココは猫にヤキモチ焼くくらいだからさ。そんなこと考えられないくらいに甘やかそうと思って。」

 意味深に笑みを浮かべるケイちゃんに素直に喜べない。

 しかも改めて言われると恥ずかしい…。猫にヤキモチとか…。

「勘違いってもう分かったから大丈夫!」

 丁重にお断りしても無駄みたい。

「だからそんなこと思えないくらい毎日甘やかすから。」

 ケイちゃんは作ってくれた野菜炒めを箸でつかむと「あ〜ん」と私の口元に差し出す。

「自分で食べれるよぉ。」

 そ、そういえば私の箸がない!

「ダメ。ほら。あ〜んして。」

「…あ〜ん。」

「美味しい?」

「美味しい…です。」

 ケイちゃんは満足そうな顔で自分も野菜炒めを口に運んでいる。

 それ、私に食べさせた箸だから!一緒の箸だから!

 そんなこと訴えることもできないまま、交互に食べる。すっごく面倒…。その上、照れる。恥ずかしい。居たたまれない。

「ねぇ。自分で食べたいよー。」

「こんなところにソースつけてる奴がよく言うよ。」

 そう聞こえたと思ったら顔が近づいて…口の端…というかほぼ唇をペロッと舐められた。

「な…な、なめ…。」

 真っ赤になって急いで口を隠す。急いだってもう遅いんだけど。

「ソースついてた。」

 ニッコリ微笑んだ後、ケイちゃんはまた普通の顔で食事を再開してる。

「な、だ、だから食べさせてもらうから上手く食べれないんでしょ!」

 動揺している私の方がおかしいみたいだけど、こっちが普通ですからね!

 もぉ!と席を立って箸を取りに行こうとすると手を掴まれた。

「ダメだろ。食事中に席を立ったら。」

 お行儀が悪いとか言っちゃうわけ?

 立ち上がった私は座ったままのケイちゃんを見下ろすと色気だだ漏れのケイちゃんと目が合ってしまった。

 ホント今日のケイちゃんどうしちゃったの!?

「なぁ。やっぱりココのリップ甘いね。」

 そ、そんな感想いらないぃ!!!

 私は手を振りほどいて歩き出す。

「どこ行くんだよ。」

「トイレ!!」

 今はちょっと避難しないと無理ー!!


 洗面台の前で鏡を見ると顔は赤い。そりゃそうだ。あれだけお色気攻撃されたら…しかも好きって気づいた途端にあまあまが上乗せされるって…。心臓もたないよ…。

 でも…。好きだから照れてるのか色気だだ漏れで照れてるのか分からないや。ふぅ。

 とにかく呼吸を整えて普通に接しようと心に決めてダイニングへ戻ることにした。


 席に着く前にキッチンから箸を取り、ケイちゃんの前に座る。

「そんなに俺の隣は嫌なのか?」

「そうじゃないけど…。」

 心なしか…ケイちゃん拗ねてる?

「だいたい瑠羽斗の膝には乗って食べたりするんだろ?」

「従兄弟のルーくんの話?だからそれは子どもの頃!」

「俺とはそんなことしたことない。」

「そりゃ子どもの頃は一緒に居なかったから…。」

 ケイちゃんは少しむくれてそっぽを向いた。

 なんだろう。やっぱり今日のケイちゃん子供っぽい…。だってそれじゃまるでケイちゃんこそルーくんにヤキモチ焼いてるみたいだよ。

 おかしくて思わずクスクスと笑っているとケイちゃんはブスッとした顔で不服そうな声を出した。そんな顔も始めて見た。

「瑠羽斗より誰より俺が一番心愛の近くじゃないと嫌だ。」

「なんで急にそんなこと…。」

「なんだよ。俺、お兄ちゃんなんだぞ。」

 お兄ちゃん。の言葉に少し胸がチクッとする。お兄ちゃん…。そうだよね。でもケイちゃんはそうだとしても私は…。好きなんだもん!緊張するんだもん!

 そんなこと言えるはずもなく黙っているとケイちゃんが隣の席に来た。

「ほら。ここに来いよ。」

 そう言うが早いか腰に手を回されて、ふわっと体が浮かされた。着地したのはケイちゃんの膝の上。ギュッと抱きしめられる。

「ココって抱き心地いいんだよな。このまま乗せときたい。」

 だからどうして今日は…。甘過ぎてクラクラするよ。

「重いんでしょ?」

「重くてもいい。」

「重いんじゃん!」

 ククッも笑ったケイちゃんは急に声を落として話し出した。抱きしめられたままで顔は見えない。

「俺の幸せは…ココが笑ってることだから。だからこのまま…笑ってろよ。」

 なんて返事したらいいのか、嬉しいのに何故だかケイちゃんを遠くに感じてしまった。


 結局はものすごく時間がかかったけど、ほぼ食べ終わった。あとはケイちゃんの最後の一口を残すのみとなった。

 な、長かった…。

「ねぇ。たまには俺にも食べさせてよ。」

 箸を渡されて隣の席に降ろされた。

 えぇ。ずっと膝に乗せられたままでしたよ。

「食べさせてって…。」

 もうこの際、食べさせるくらいどうってことないか。そう思って残りの一口を箸でつかんでケイちゃんの口の前に差し出した。

「あ〜んして?」

「あ〜ん。」

 開けられた口にそっと残りの野菜炒めを入れた。ただ食べさせるだけと思っていたのに、そのケイちゃんの姿がなんかものすっごく色っぽくてなんだか…。

「何?食べたかった?」

 ジッと見ていたのが物欲しそうに見えたみたいで口元についてしまったソースを舐めるケイちゃんに質問された。そのソースを舐める姿も…なんかさ…もしかしてわざと?


 動揺していると、ふいに手をつかまれて引き寄せられた。近くなる顔にドキッとする。

「ほら。今日の分。」

 頬をちょんちょんと指されて、食事を作ってくれてありがとうのチューを要求される。

 何がなんだか今日のケイちゃんは…と半ばヤケクソでチュッと頬にキスをして、逃げるように2階に向かった。

「後で片付け手伝うから先にやっちゃダメだからね!」

 と、捨てゼリフを残して。


 佳喜は心愛がいなくなって、つい放心状態で固まっていた。ふっと意識を戻すと髪をクシャクシャっとしてつぶやく。

「照れてたくせにキスは躊躇なくするとか反則だろ。」

 頭を抱えて顔を隠すようにうずくまるが、隠しきれていない真っ赤な耳を出たままだ。

「兄妹だからこそスキンシップ多めって、どういう家庭方針だよ。」

 恨めしそうな声は自分に言ったのか誰に言ったのか分からないまま佳喜は顔を上げられなかった。

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