第18話 再びバイト先へ
優ちゃんとの待ち合わせはカフェ。『ケイちゃんのバイト先でランチだよ?』って言っても『甘いもの食べないとケイちゃんに会うための作戦会議ができない!』って言われてしまった。
作戦会議かぁ…。
「心愛ちゃん!こっちこっち!」
待ち切れない様子の優ちゃんがカフェに入った私に手を振っている。
「で、ケイちゃんはなんて?」
「なんてって…。ココの友達に会っておきたいって言われただけで…。」
注文に来てくれた店員さんにホットだけ頼むと今日は朝からガトーショコラを口に運んでいる優ちゃんの前に座った。
さすが優ちゃん…。今日はちょっと真似できないな…。後からバイト先に行くと思うと食欲ないし。
「じゃ会って、お前はココの友達に相応しくない!とか言われちゃうの?」
「そんなこと言わないよ〜。優ちゃんは私の親友なんだから!」
「心愛ちゃん!!」
テーブル越しにギュッと抱きしめられた。
なんだろう…。佐藤さんって愛情表現が激しめの人が多いのかな?私も…佐藤さんだけどさ。
「でもさぁ。ケイちゃんのバイト先って私の知らないケイちゃんの世界って感じで…寂しくなっちゃうんだよね。へへっ。おかしいよね。お兄ちゃんなんだし今まで一緒にいなかったんだから知らないのは当たり前なんだけど。」
言っておいて恥ずかしくなってコーヒーカップに視線を落とした。琥珀色の湖面にしょんぼりした自分の顔が映った。
「おかしくないよ!お兄ちゃん取られたら寂しいんじゃない?」
優ちゃんは一人っ子。私も前までは一人っ子。だからお兄ちゃん…しかもモテるお兄ちゃんを持つ妹の気持ちがイマイチ分からない。
「そうなのかなぁ。優ちゃんにそう言ってもらえるとそんな気がして来た!」
やっぱり優ちゃんといると元気になれる!
「うん。じゃ結局のところノープランだけどケイちゃんのバイト先に行く?何時頃って言われた?」
「ん〜ランチって言われただけだから…。途中に可愛い雑貨屋さんあるから寄ってから行こうよ。」
「やったね!」とホクホク顔の優ちゃんとカフェを後にする。「ランチはケイちゃんがご馳走してくれるって」と報告すると優ちゃんはますます顔をほころばせた。
「いらっしゃいませ。お客様は…あれ?ココちゃん。と、そちらはお友達?」
前に来た時と同じギャルソンの格好がよく似合う好青年に出迎えられた。
えっと…誰だったっけ。
「俺、大智ね。」
ウィンクを優ちゃんにしてる姿がさまになってるけど…自然過ぎて逆にビックリする。
優ちゃんはペコリと頭を下げて挨拶した。
「心愛ちゃんの友達の優奈です。」
「そう。可愛い子の友達はもれなく可愛いのかな?」
スマートに「こちらへどうぞ」と案内しながらもナンパな発言ばっかり。
じゃ遊び人の友達は遊び人なんだね。
そう言ってやろうと口を開きかけたところで、これまた前の「妹のくせにケイくんの夢を邪魔するな」って言って来たウェイトレスさんと目が合って何も言えなくなってしまった。
また来たのかって言いたげな視線が痛い…。
「ケイなら朝からバイトに来てるよ。そっか。休むとか言ってたのに来たのはココちゃん達が来るからだね。呼んでくるよ。」
再びのウィンクを優ちゃんに投げて大智くんはキッチンの方へ言ってしまった。
「大丈夫だよって言えば良かったかな。」
「いいんじゃない?ケイちゃんがバイト先に誘ったんだし。それにしても大智くんだっけ?すごい人だね。」
「そうでしょ?友達ってやっぱり似るのかな?ケイちゃんも遊び人って感じだもん。」
優奈は「ケイちゃんはきっと心愛ちゃんだけだよ」と言いたい気持ちをグッと抑えた。
少しするとケイちゃんが席に来て、その姿はコック帽まで被っている料理人の姿だった。
その格好に余計に緊張する。
「こんにちは。優ちゃんだよね?前はココが迷惑をかけてゴメンね。今日はゆっくりしていって。」
にこやかな笑顔を向けると去り際に私の頭をグリグリして行った。
「フフッ。愛されてるね。心愛ちゃん。」
「え?そうなのかな…。」
「うん。やっぱり溺愛系お兄ちゃん。」
溺愛系…お兄ちゃん。そうなんだよね。
少しするとサラダをトレイに乗せたケイちゃんが席に来た。今日はケイちゃんが直接サーブしてくれるみたい。
「彩り野菜のサラダになります。」
「わぁ。美味しそうだね。心愛ちゃん。」
優ちゃんは嬉しそうにフォークを手に取った。
うん。前に食べさせてもらったのだ。美味しかったなぁ。
ぼんやりしているとケイちゃんが声を落として優ちゃんに何かを話していた。
「…元気がないんだ。」
「え?何が元気ないの?」
ケイちゃんと優ちゃんに一斉に視線を向けられてドキリとする。
「はい。そう思います。心愛ちゃんがご飯を前にしてウキウキしないなんて。」
「それは…。優ちゃんほどじゃないよ〜。」
ジトリと二人に見られて居心地が悪い。
「喧嘩した友達とは仲直りしたみたいですし、大丈夫ですよ。よく話してみます。」
優ちゃんがそう言うとケイちゃんは安心したように、またキッチンへ戻って行った。
「え?何が?なんのこと?」
「心愛ちゃんのこと!ケイちゃん心配してたよ。きっと私が今日呼ばれたのはそのせいだね。」
優ちゃんがなんのことを言ってるのか分からない。
「ココ、友達と喧嘩したらしくて最近元気がないんだ。って。」
そのために…。ケイちゃんは私が元気ないから心配してくれてて優ちゃんに聞こうと思ったってこと?
「でも…心愛ちゃんが元気ないのは違う人のことででしょ?」
「…うん。」
やっぱり優ちゃんはよく分かってるなぁ。敵わないや。
「なぁなぁ。誰のことで元気ないわけ?」
知らないうちに近くにいた大智くんにドキッとする。
「お客様の話を聞くなんてマナー違反ですよ。」
優ちゃんがほんわか口調だけどビシッと言ってくれた。
「これは失礼致しました。で、ココちゃん。今日はココが来てるよ。後でケイに会わせてもらえよ。」
大智くんは悪戯っぽい笑みを残して「いらっしゃいませー」と入口の方へ行ってしまった。
「ココって誰?」
優ちゃんが眉をひそめて質問してるけど上手く返事ができない。
ケイちゃんに会わせてもらえって…。どうしよう。どうしよう。私、会いたくない!
急に立ち上がった私に優ちゃんはビックリした顔をしている。
そりゃそうだよね。食事も途中だし。でも…。
「ゴメン。もう行かなきゃ。」
「え?え?ちょっと。心愛ちゃん?」
私は優ちゃんの方も向けずにそのままお店を出た。そして足を止めることなくとにかく歩き続けた。
優奈は大智にこそっと耳打ちをする。
「心愛ちゃんちょっと急に体調が悪くなって。ケイちゃんに心配かけたくないって伝えておいてください。」
「え?ちょっとどういうこと?」
優奈は呼び止める大智に振り向くこともなく、急いで心愛を追いかけた。
大智は仕事の合間にキッチンへ行くと佳喜に優奈からの伝言を伝えた。
「ココちゃん体調不良で出てったぜ。ケイちゃんには心配かけたくないって。」
「な…。あいつ…。」
佳喜は憤慨した様子でサーブしようとしていたパスタをテーブルに下ろす。
「ちょうどこのパスタの注文が入ったんだ。もらってくぜ。」
「あ、あぁ。」
力なく返事をした佳喜を横目に、大智はパスタを運びながら「こりゃお互いに重症だな」とつぶやいていた。
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