第16話 パパへの相談

「喧嘩じゃなくて…ケイちゃんはここに住んでて辛くないかなって。」

 しばしの沈黙。本当に僅かな。その後に大笑いされた。

「なーに言ってんだ!佳喜に言われたのか?」

 何もそんなに笑わなくても…。パパに相談すればこうなるかなとは思っていたけど。それでも頭痛が…。

「言われてないけど…。でも幸せには見えないよ。」

 直接はここに住んでいて嫌だとか辛いと言われたわけじゃない。でも今が幸せかって質問に幸せと答えてくれないのだから、そう言っているようなものだもの。

 俯きそうな顔にパパの相変わらずの言葉をかけられた。

「そんなの心愛が側にいて幸せじゃない奴なんているもんか。」

 顔を上げればいつもの優しいパパ。

「パパ…。それ親バカなだけ。」

「違うぞ。身内の欲目だ。」

 一緒だよ…。私が呆れているとパパがしたり顔で続けた。

「佳喜も身内だろ。」

 う…。そうだけど。

「佳喜って奴は大学そっちのけでバイトしてて留年してるような奴だ。留年というよりあいつ勝手に休学してやがった。」

 そうだったんだ…。一歳年上だけど4月で大学院ってそういう…。一年ダブってるなんて案外当たり前にいるから深く考えてなかったけど…。

「本当に料理好きなんだね。」

「まぁ好きなんだろうが、それだけじゃない。学費を自分でどうにかしようと思ったらしい。勉強に学費も住む場所も自分で賄おうと思っていたら体を壊す。」

 そこまでパパに遠慮して…。自分は感謝はもちろんしてるけど当たり前にパパにしてもらってることなのに。

 余計に胸が痛くなる。

「だから心愛と一緒に住まわすことをパパは決めたんだ。料理をするって名目と心愛を大事にするってことで。それでバイトをし過ぎずに勉強するなら万々歳だ。」

 私どころかケイちゃんの心配とかパパらしい。

「ケイちゃんバイトし過ぎるどころか私を心配してくれてバイト休んでるよ。」

「それはすごい変化だ。あとはもっと打ち解ければ佳喜だってもっと幸せだって思うさ。」

 打ち解ければ…かぁ。

「…私に何ができると思う?」

 ケイちゃんに無理させないっていうこと以外でも私にできることってなんだろう。

「心愛は何があっても佳喜を信じてやって隣で笑っててやることだな。」

 何があっても信じる…。それならできそうかな。でもそんなことでいいのかなぁ。

「そんなに心配ならパパが佳喜に何か言おうか。」

 マズイ…。これは過保護なパパが発動しちゃう。

「ダメダメ。パパの言うことは絶対だもん。そんな風で嫌々じゃ意味ないよぉ。」

「パパだけじゃないぞ。心愛の言うことだって絶対だ。」

 そんなわけない。私が…ケイちゃんに何かお願いしたことって……そういえばないかも。


 そんな話をしていると玄関が開く音がしてパパへの秘密の相談はお終いだ。

「ケイちゃん帰って来たみたい。パパ、ケイちゃんとも話すでしょ?」

「そうだな。本当にパパからは何も言わなくていいのか?」

「大丈夫だから!」

「何が大丈夫なんだ?」

 ぬうっと背後から現れたケイちゃん。

 どんな登場の仕方!…あっコンビニの。そっか。頼んだから買って来てくれたんだ。

 ケイちゃんは手にコンビニの袋を持っていた。その中には見えないけど、きっとレアチーズが入ってるんだろうな。

「喜一さん。ご無沙汰しています。こちらは元気でやってます。」

 パパと業務連絡的な会話をするケイちゃんをぼんやりと見るともなく見る。

 あ、あんなところに小さいホクロあるんだ〜。そういえば兄妹ってほくろの位置も似たりするのかな。

 顎のラインにある俯いてしまうと見えないくらいの位置にあるほくろ。

「おい!聞いてるのか?ココ。」

「え?あ、はい。何?」

 ハッとして焦点を合わせると呆れ顔のケイちゃんがこちらを見ていた。

「なんだ。佳喜に見とれてたな?」

 茶目っ気たっぷりに言うパパに焦ってしどろもどろになってしまう。

「そ、そ、そんなわけないよ。」

 パパにそんな風に冷やかされる時が来るなんて…。というかケイちゃんはお兄ちゃんでしょ!見とれるとかおかしいから!

「誤魔化さなくても大丈夫だ。佳喜の顔の綺麗さは愛子似かな?」

 な…愛子って…。ママのことだよね!?

「え…何?ケイちゃんってママの子なの?」

「ん?佳喜はパパとママの子だろ?」

 ニコニコのパパ。黙って目を伏せているケイちゃん。

 何?どういうこと?

「じゃパパはそろそろ行かなきゃ。」

 行くってどこへ?と質問する暇さえも与えてもらえず、ブチッと通信は切れた。

「…………。」

「…こんのクソジジイー!」

 思わず叫んだ私の横でケイちゃんはクスクスと笑い声を抑えている。というか抑えているのが漏れちゃってる。

「ココって変わらないな。まぁここは家だからいいんだけどさ。」

 頭をグリグリされケイちゃんは行ってしまう。

 いえ。誤魔化されませんよ。

「ケイちゃん!待ってよ。さっきの何?」

「さっきのって?」

 ケイちゃんは全くもって気にしてないパパの「愛子似かな?」の言葉。ということはやっぱり…そういうこと?

「あ、そうだ。頼まれたレアチーズ買ってきたんだ。食べる?何か…こんな夜にコーヒー飲んだら眠れなくなるかな?お姫様は。」

 だからお姫様ネタまだ引っ張るんですか?ついでに子供扱いまでプラスされてるし。

 私の「大丈夫」って言葉にケイちゃんはニッコリした。

「ラテにしてあげるよ。」

 また私の頭をグリグリしてからキッチンへ行ってしまった。

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