第2話 一緒に住むの?

 お色気攻撃と思われた仕草は佳喜くんにとって普通の行動なのか次の話に進んでた。

 …アレが普通ってどうなの?

「一緒に住むなら心愛ちゃんに喜一さんと同じことしないとダメだって。」

「ちょっと待って!一緒に住むとか聞いてない!!」

 しかもパパと同じことって…。まさかね…。

「何をしなきゃいけないかは自分がよく分かってるだろ?」

 佳喜くんは意地悪く笑う。

 パパとは……おはようのチュー。おはようのハグ。いってらっしゃいのチュー。いってらっしゃいのハグ。…簡単に言えばいつでもスキンシップ!が基本。

 本当はいつでもどこでもだったけど大人になってから私が拒否して家だけになったし、チューもさすがに大人になってからは口ではなく頬だけど!

 それを佳喜くんと?…いやいやいやいや。だいたい一緒に住むとか聞いてない。

「ちょっと待ってよ。それしないと一緒に住めないって言われたの?」

「そう。喜一さんって言い出したら聞かないでしょ?」

 佳喜くんは余裕の笑顔だ。

 しかもパパのことよく分かってらっしゃる。

「だったら無理して一緒に住む必要ないんじゃない?」

 一瞬、寂しそうな顔に見えたのは気のせいだったのかな?変わらない余裕の笑顔を向けてきた。

「料理全般がダメなんだろ?俺、料理人志望だけど?」

 う…。美味しいご飯付き!?ダメダメ。騙されちゃダメ。佳喜くんは危険人物!

「料理人志望なら…そしたら大学行かなくてよくない?」

「俺だってそう思うけど。それも喜一さんのこだわり。」

 肩をすくめられてそう言われちゃったら何も言えない。だからって一緒に住む必要は全くもってないんだけどね。


 だいたいココアってメルヘンな名前にしたのはママの趣味。別に嫌いではないけどさ。名字の佐藤が平凡なだけに。

 でも佳喜くんはパパの隠し子でしょ?なのになんで名前はママの趣味の名前なのよ…。

 そんなことを考えてみてもパパはもちろんママだってブッ飛んでたもん。正解なんて分かるはずもない。

 しかもパパの喜一の一文字を取って佳喜なんて…。完全にパパの子どもだって認めざるを得ない感じ。

「佳喜くんはいいの?うちに住んじゃって。彼女とか連れ込めないよ?…っていうかもちろん連れ込むの禁止だからね!」

 クククッとなんだか馬鹿にした笑い方をする佳喜くん。

「喜一さんと本当に親子だよね。同じこと言ってた。別に他でやるからいい。」

 うわー他でって言いやがったよ。ほら遊び人じゃない。ヤダヤダ。


「ねぇ。心愛ちゃんじゃ長くて呼びづらいしココでいい?俺、仮にもお兄ちゃんだし。」

 ココかぁ。別になんでもいいんだけどさ。その呼び方はちょっと思い出の…なんだけどなぁ。

「ダメ?」

 佳喜くんはそう言うとお伺いをたてるような目つきで私の顔を覗き込んだ。

 おっと…その顔は反則です。遊び人の佳喜くん。仮にも私は妹だよ?色気ダダ漏れ禁止!

 心の声をそのまま口に出せなくて黙っていると「俺はケイくんがいいな」って勝手にまた話進めてる。

「じゃケイちゃんで!」

 グッと黙った顔が納得してない顔だけどココって呼ぶなら私だってケイちゃんって呼ぶもん。

 食事が終わるとなんだかんだ流れでケイちゃんと二人、家に帰ることになった。


 鍵を開けて手慣れた素ぶりで家に入るケイちゃん。既に鍵を持ってるってどうなの?パパ!

「じゃ俺の部屋こっちでココの部屋はそっちね。奥の部屋は喜一さん。」

 いやいや。ちょっと待って。ここの家って私の実家ですよね?

 固まる私にケイちゃんが答えをくれた。

「俺、ちょっと前から住んでるから。」

 そういうことサラッと言っちゃいます?なんか遠恋してた彼氏とられた気分。今回は彼氏じゃなくてパパだけど。


「じゃ俺、部屋に行くから風呂は適当に入って。俺は風呂あとで入る。」

 言いたいことを言ったケイちゃんは返答できる隙を与えないほどすぐに部屋に入っていった。

 成り行きで一緒に住むことになったみたいだけど…。大丈夫かな…。

 ま、とりあえずお風呂に入ろう〜っと。


 部屋に入った佳喜はベッドに倒れこむ。

「これでいいんだろ?…喜一さん。…愛子さん。」

 まぶたをきつく閉め、しばらくするとベッドから起き出す。そして机に向かった。ペンを手に取り真剣な面持ちで便箋に言葉を綴る。

『しんあいなる ここあへ』

 綺麗で丁寧な文字は花びらの柄がプリントされた可愛らしい便箋の上に言葉を重ねていった。時折、手元にある日記の様な物を確認しながら、言葉を慎重に選ぶ。

 優しい顔で…だけど僅かに辛い顔で書き上げた便箋をお揃いの封筒に入れて切手を貼った。それを肩掛けのバッグに入れて部屋を出る。

 玄関に向かっていると心愛がお風呂から出たところだった。

「ケイちゃんどこに行くの?…まさか女のところ?」

「コンビニだけど?」

 本当に〜?と言いたそうなのが顔全体に出ている。両親の愛情を一身に受け素直に育った天真爛漫。それが佳喜が心愛に感じた印象。

 その純粋無垢な顔を見ると歪めたくなる。

「女物のシャンプーの香りをさせて帰った方が良かったらそうするけど?」

 わざと意味深に笑うと玄関を出た。後ろで聞こえてないと思っているらしい「うげっ。遊び人ー!」という声が丸聞こえだった。


 少し遠いポストまで歩く。背がスラッと高い佳喜は目立つのが嫌でつい背中を丸めそうになる。しかし「シャキッとしなさいよ」の声を思い出すと微笑んで背筋を伸ばした。その方があの人を近くに感じられる気がした。

 夜の風が心地よく頬に当たる。ポストの前に立つとバッグから封筒を取り出した。

 封筒に書かれた宛先はさっき出てきた家。宛名は『さとうここあ』差出人は『さとうあいこ』それらをチラッと確認した後にポストに封筒を押し込んだ。

 ふぅと一息つくとコンビニに足を向けた。

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