サトウ多めはあまあまデス

嵩戸はゆ

第1話 新しい家族

 全国の佐藤さん、鈴木さん、高橋さん。わたくし名字ランキング1位の佐藤さんを代表してメジャーな名字あるある言うね!

 病院で呼ぶ「佐藤さ〜ん」の声。顔を上げる人がいる!いる!ここにもあそこにも! 名字だけで返事しちゃダメ!ダメ!佐藤さんの常識でしょ?

 学校では佐藤さんが居過ぎてイチサト、ニサトって変なあだ名つけられたりして。どっちが1でどっちが2の佐藤?くらいじゃもう怒らないよ。っていうかそんなことでいちいち怒ってられない。

 他にもいっぱいあるよね?でも私が一番覚えてて一番嫌だったやつ。

「お前ら同じ佐藤だろ。ケッコンしてんのかよ!やーい!夫婦!夫婦!チューして見せろっ!」

 小学生って本当バカ!

 なのに…。そんな今までの悩みがちっぽけだって思える。

 リアルで同じ佐藤が嫌だって思うことになるなんて。名字を見るたびに辛くなるなんて。

 兄妹だもん。同じ名字は当たり前なんだけど…。


ーーーーーーー


 今日はいつもよりおめかししてお洒落なレストランの前に立ってる。

 パパに「大学は自由にさせたから就職は地元でするように!」って口酸っぱく言われて地元に戻ってきたの。

 佐藤心愛22歳。この春に大学を卒業して晴れて社会人。でも今日は就職祝いじゃないんだ。

「新しい家族を紹介したい。」

 実家に戻って最初に言われたのがコレ。我が道を行くタイプのパパのことだもん。ちょっとやそっとじゃ驚かない。

 それにママがお空に還っちゃってから男手一つで育ててくれたパパには感謝してる。ママだけを想ってて欲しいなんて子どもっぽいわがままかな…。


 レストランに行くと既にパパは来ていた。隣に座る人は…。んん?女の人には見えないけど…。そっか。私達みたいに向こうも連れ子ってわけね。

 パパは私に気づいて顔いっぱいの笑顔で手を振ってる。恥ずかしい…。

「心愛!久しぶり。相変わらず可愛いな。」

「ついさっき!午前中に会ってるでしょ!」

 パパったら本当にいい加減なんだから。呆れた顔を向けても、ちっとも気にしてないし。

「ちょっと離れただけでも会えば再確認するほどに可愛いんだよ!佳喜もそう思うだろ?」

 けいき…。甘くて美味しそうな名前…。

 そう声をかけられた人を見ると、名前とは似ても似つかない鋭い目つきに思わず固まってしまった。

 さ、刺さる!視線が!

「ほら心愛。新しい家族の佳喜。」

 無言の佳喜くんにドギマギしながら会釈する。

 えっと…肝心の新しくママになる人は…。

 パパは来たばかりなのに席から立ち上がった。

 どうしたのかな?お手洗い?

「じゃ俺はもう仕事に行かなきゃ。後は若い二人で…。」

「ちょ、ちょっと!パパ?私の…まさかお見合いじゃないよね?」

「何バカなこと言ってるんだ。佐藤佳喜。正真正銘お前のお兄ちゃんだ。」

 謎の言葉と満面の笑みを残してパパはレストランを出て行った。仕事って言ったらパパは世界を飛び回っているカメラマン。数ヶ月は帰ってこない。

「こんのクソジジイがー!!!!!」

 思わず叫んだ私にレストラン中の視線が突き刺さったのは言うまでもない。


 無言の佳喜くんは当たり前のようにそのまま食事をするみたい。ウエイターさんに「料理お願いします」と慣れた感じで声をかけていた。

 私はその様子を盗み見て観察する。スラッと背が高そうなのは座っていても分かる。パパだって背が高い方なのに見劣りしなかった。それより何より鋭すぎる目つき…。きっとそれで人を殺せるよ…。

「改めて自己紹介しようか。俺は佳喜。心愛…ちゃんだったよね?」

 不意打ちで向けられた笑顔は違った意味で破壊力絶大。やばい…。ギャップがやばい。

「はい。心愛です。」

「ケーキにココアか…。喜一さんの趣味?」

「いえ。ママが…。いえ。母が。」

 ククッと聞こえた笑い声に俯いていく顔を持ち上げる。悪戯っぽい笑顔の佳喜くんは少年のようで可愛らしかった。

「今さら取り繕っても遅くない?なんたってクソジジイって言ってたしね。」

「だってパパが!なんの説明もなく居なくなるなんてあり得なくない?」

 確かにクソジジイって言っちゃったね。しかも叫んだしね。後先考えない性格を呪いたい…。この性格は絶対にパパ譲り!

「説明は俺がするよ。俺は佐藤佳喜。23歳で心愛ちゃんの1つ上。この春からは大学院に行く予定。」

「で、新しくママになる人は?」

「は?そんな人いないけど。」

「は?だって新しく家族を紹介したいって…。」

「だからそれが俺。」

「は?」

 再婚相手はパパと世界を飛び回るのについて行って連れ子は連れ子同士仲良くしろってことかな…。まぁパパならやりそうだよね。それにしたって新しいママも一言くらい挨拶してくれてもいいのに…。

「ねぇ。何か勘違いしてない?」

「え?何が?」

「俺が新しい家族だよ。んー。簡単に言うと隠し子?」

「は?」

 目を点にして佳喜くんを見ても見つめ返されるだけ。

 えっと…えーっと。ママが居なくなってパパも寂しかったんだね。だから新しい出会いがあって、えっと子どもを授かったってことかな?でもちょっと待って。私より1つ上ってバリバリにママ健在の頃なんですけど!

 フツフツと沸いてきた怒りにスゥッと息を吸い込んで「あんのクソジジイが!」と口が動く前にそれはストップすることになった。

「また叫ぶとかやめた方がよくない?」

 ニコッと笑顔の佳喜くんの指がシーッの形で口元に添えられている。何故か私の口元に!

 呆気に取られている私から指を離すとその指を…な、なめた?

「このリップ甘いね。それとも心愛ちゃんのくちびるが甘いの?」

 色っぽい仕草とキザ過ぎる言葉に悶絶死しそう…。しそうじゃない。死ぬよ!死ぬ!死ぬ!この人、絶対に遊び人!危険人物だよ!パパー!

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