第16話

 そんな状態のハッピー君をネタに、家族みんなで話をしていると、弁慶号が傍にやってきた。

「とても、いい式でした、ありがとう御座います・・・。」

 さちお君の親族一同を前に、今まで聞いた事のない敬語をお喋りになられた!この辺り、やっぱり男親は辛い。

「ところで…。」

なにか言いたそうで、躊躇しがちな弁慶号。いったい何でしょう?

「さちお君、新居はどうするつもりかな?」

(新居の話なんて、どうしちゃったのお父さん)

「もう、決ったのかね、新居。」

「はい、お父さん。取り敢えずは、僕のマンションで新生活を始めようかと思っています。」

「くだらん事かも知れないが、部屋の大きさはどれ位かな?」

 何故にそんな事を聞くのかしら?

「三LDKだったと思います。それなりの広さだから、新婚生活には十分対応できます。」

 微妙に困ったような弁慶号、暫く考えて、再び発言、

「部屋は何階かな?」

「はい、十三階です。景色、悪くないですよ。今度是非、遊びに…。」

と、言うのを遮って、弁慶号が、

「エレベーターは、大丈夫か?」

「え?」

「ロープが切れたりせんだろうな?」

 ぎろっと弁慶号を見るももこ号。何で又、そんな話を…。恐らく弁慶号も、やってしまった、そう思ったに違いない。次の言葉に窮してしまった。

 びみょーに感じの悪い沈黙を遮ったのは、さちお君父だった。

「大丈夫ですよ。エレベータには三重の安全機構が織り込まれています。仮に、万一ロープが切れるような事があっても、圧着ブレーキで落下を防止しますから、安心されたら。それより、他に、何か思うところがあるのではないですか。」

 今までに見た事のない、申し訳無そうな表情で、弁慶号が語りだした。

「こんな事を言うのは、非常に恐縮するのですが…その、さちお君には、是非、我が家で同居して欲しいのです。」

「へ?」声をあげたのは、さちお君。

「正直申しまして…娘を外に出した事はないのです。一人暮らしという意味ですが…。朝起きて、朝食を一緒に食べる生活を、あるいは晩御飯を一緒に食べる生活を、娘が生まれてからずっと続けてきたのです。娘の居ない生活と言うのは、私には、考えられないのです…」

 だんだんウルウルし始めた弁慶号。さちお君父をジッと見つめて、

「お父様におかれましては、あたかも婿養子に入るみたいで、嫌悪感を持たれるかもしれません。しかし、そう言う、婿養子的な考えは、私は持っておりません。ただ、単純に同居を希望しているだけなのです。私のこのような考え、可笑しいでしょうか?」

 質問されたさちお君父、少し困ってしまったが、

「お父様のお気持ちは、とても良く判ります。私も娘を嫁に出した身ですから、本当に良く判ります。しかし、先ずここで考えなければならないのは、娘さんの、ももこ号の幸せではないですか?ももこ号とさちおが、どのような考えを持っているのか、そして、その考えが最優先で尊重されるべきだと思うのです。」

 弁慶号、ごもっともと言った表情。しかし、割り切ってはいない感じ。始まりかけた沈黙を遮ったのは、再びさちお君父。

「さちお、お前は、弁慶号のお考えについて、どう思う?」

…ふられても困る…

「…全く予想してなかった話だから、実際のところ、どう答えていいのか判らない…ももこは、どう思う?」

「私は…」っていうか、答えられないよね。

「僕はさ」さちお君がももこ号を見て言う「同居してもいいんだよ。」

「え?」驚くももこ号と弁慶号。

「勿論、ももこが、二人だけで新婚生活をしたいというのであれば話は別だけれども、もし、心の奥底に、同居の考えを持ってるのならば、僕は構わない。」(本当だよ)

 じっとももこ号を見ていると、ももこ号まで、目がウルウルし始めてる。何だよ、二頭とも、今日は酔ってんじゃないの?

「私…」ももこ号、蚊の鳴くような声。「さちお君が、もし良いよって言ってくれるんだったら、パパと一緒に住んであげてほしい…」

 弁慶号、ふうっと娘を見やる。

「私、一人娘で、正直、心配だったの。お嫁に言ったら、パパ、寂しくなるだろうなって。だけど、お嫁に行くって、そう言うものでしょ?だから、寂しい感情を乗り越えてもらわないとダメなのかな、そうも考えた。ただ、もし許されるなら、パパ達と一緒に、家族五人で生活出来たらいいなって、ずっと思ってた…」

 言葉が段々消えていくももこ号。

 と、弁慶号が吠える。

「私の事は気にせんでいい!自分の幸せだけを考えなさい!」

 おいおい、さっきの主張はどこに行っちゃったの?やっぱり、かなりアルコール、入ってるね。

じゃあ、そろそろ、決めてあげるか…。

「お父さん!」さちお君、始める。

「僕の住まいは、決して小さくはありません。安全性も問題ありません。だから、快適な新婚生活を開始する事が可能です。」

 取り敢えず、前提を述べておいて、

「でも、お父さんが、同居を希望されている事を知った今、新婚生活の場所に関する選択肢が増えた事になりました。」

 事実関係を展開したぞ。

「お父さんのお気持ちもさる事ながら、ももこ号の気持ちを大いに勘案したとき、僕としては、霧島牧場に居を構えるべきなのかな、そう思うに至りました。僕自身、同居そのものに、なんら違和感も持ってないですし。」

 自分の主張を展開。

「確かに、奥さんの実家に住む事に関しては、否定的な考え方も存在します。

 反対論への論及も忘れずに。

「しかし、僕は、先ず第一に、ももこ号の幸せを考えます。」

 反対論を否定する理由付けの展開を開始。

「とするなら、ももこ号が秘かに希望し、且つ、お父さん…て、呼んでいいですよね、もう。お父さんも強く希望されている、霧島での同居を、僕が否定する理由はどこにもありません。」

 結論として…

「同居しましょう!お父さん!」

 以上です!

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