第15話

 ホルスティー教会での式は無事に終わった。参列者の皆が列を作って、真ん中の通路を、さちお君とももこ号がゆっくりと歩いて、みんなに挨拶をする。お祝いの意味をこめて、牛さん達は発酵させていない藁とタンポポを、さちお君達の頭の上にまく。アヒルさん達は、みんな一斉に「くわっくわっ」と鳴いて、雰囲気を盛り上げた。

 そのまま、霧島ニューホルスの中で、披露宴が始まる。参列者が物凄く多い事が予想されていたから、立食パーティーと言う形になっていた。

 霧島牧場特製の、霧島牛のステーキが、シェフさんによって調理台で焼かれる。大豆の香ばしい香りが、披露宴会場の食欲を刺激した。又、霧島ヨーグルト、チーズ等も沢山並べられ、牛さん、羊さん、ウサギさん、アヒルさん、カルガモさん、みんなあちらこちらに輪を作って歓談していた。ジャージーズも来ている。その一角で、ハッピー君一家とさちお君の両親が歓談していた。

「上手だったじゃない。可愛かったぁ。」と、さちお母。

「いやぁ、それ程でも!」と、ハッピー君。

「シンバル、重たかったでしょ。」と、さちお妹。

「いやぁ、それ程でも!」と、ハッピー君。

「ちょっとズレてなかった?」と、幼いポッキー。

「なんかシンバルとトライアングルのパートが逆じゃなかった?」と、クッキー。

「いやぁ…それ程でも…」ハッピー君、フェードアウト。

「ていうか、ジャージーズも、結構やるねぇ!」と、ハッピー君、フェードイン!

 今度はみんながハッピー君を静かに見つめた。状況が読めない彼は、軽く尻尾を振って見せる。

 さちお君とももこ号の周りには、常に沢山の牛さんが集まっていた。新居はどうするのか、新婚旅行は、子牛の予定は、等等。牧場特製ミルクワインが回りだしたさちお君は、もう、何がなんだか判らない。

 ふと左に目をやると、いたいた、我が一族!

 さちお君は、ハッピー君をひっ捕まえて、握手攻めにする。

「良かった!良かったよ、我が弟よ!お前が楽器が出来るなんて、僕は、僕はぁ。」

「なに、大した事ないよ、兄ちゃん。式、良かったよ、て言うか、盛り上げちゃったもんね、僕。」

「しかし、あの編曲は、さすがジャージーズだねぇ。」

「!」

「あそこで、ち~んとは、やられたよ。」

「あれね、パパ、間違えたんだよね。」ポッキー談。

「へ、そうなの、ハッピー?」

 ピンと立っていた尻尾は下を向き、ピンと立っていた耳も萎れて下を向いてしまった。そこへリーダー登場。

「良かったよハッピー君!あんな感じで盛り上がった式は過去には無かったからね。ちなみに、アドリブかい?あそこで、ち~んは?」

 ハッピー君の耳と尻尾がピンと立った。

「流石だね、リーダー!僕のアドリブを理解したのはリーダーだけだよ。良かっただろ?」

リーダー、微妙に笑顔が引きつるが、

「結果的には盛り上がったから、良かったよ。」

「また、いつでもジョイントするよ!」

「!」

「遠慮しなくていいってば。呼んでよね!」

「そうだね、機会があれば、また。」

 両前足を軽く左右に振って、リーダー、弁慶号の方へ歩いていった。

 単純な、ご満悦坊やのハッピー君、正にその時の自分自身を思い出し、微妙に興奮してきたみたい。アルコールが入っているせいか、トライアングルを鳴らす仕草を、自慢げにやりだした。そして、くるっと向きを変えた、その時である。

「兄ちゃん…あれは…。」

「え?」声につられてその方向を見て、ドキッ。

「ハッピー、あれはね、僕達を警備してくれてる犬さんだよ。」

「なんで、バカスキーが?」少し鼻息が荒くなってきた。

「シベリアン・ハスキーのグロッキー君だって。ていうか、なあハッピー。ここでは頼むから…。」

「ダメ、ここで会ったが百年目、ちょっと挨拶してくるかな。」益々荒くなる鼻息。

「ダメだって…」

「大体、警備犬は、ジャーマン・シェパード氏か、ドーベルマン氏って相場が決ってるんだ。あいつ、ソリでも牽いてればいいんだ、ヒック。」

 遂にハッピー君、アルコールにも力を得て、突撃!

 が、しかし、足元がおぼつかない。フラフラ~っとグロッキー君の傍まで流れていって、そのままその場に伸びてしまった。

 大慌てで迎えに行こうとするさちお君だったが、結局、グロッキー君が、ソリに乗っけてハッピー君を返品してくれたのである。

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