第10話
さて…
結婚のご許可を賜る事に要する費用は、ある意味、知れている。一生に一度のその出費は、サブレ一箱分で済んだ。問題はその後だ。
ホルスティー教会で、ブライダル担当牛さんと結婚式の打ち合わせをしていて、恐ろしい事実を知る事になる。
「お世話になります、さちおです。」
今日はももこ号とは別行動。理由は判らないが、結婚式の費用の話が出る場所には新婦を同伴しないしきたりがあるらしい。
「こちらこそ。この度は、おめでとう御座います。」
担当牛さんは、とても品がいい黒毛牛さん。物腰が柔らかくて、なんでも相談出来そう。
両者、テーブルを挟んで相対し、打ち合わせを開始する。
「ももこ号の事は、まだ彼女が子牛だった頃から存じ上げております。結婚されるとなると、走馬灯のように昔の記憶が思い出されますね。」
少し遠くを見るような感じで、暫く感慨にふける担当牛さん。
「では、早速始めたいと思います。」
そういって、具体的な内容に入っていった。ホルスティー教会のキャパシティー、進行の内容・時間・タイミング、及び新郎新婦の、準備の為の集合時間、ジャージーズの祝福、披露宴会場での進行、料理の内容、等等。
「それと、さちお君は有名な方ですし、ももこ号もやはり我が霧島牧場のご令嬢と言う事で、マスコミ対策と警備には万全を期させて頂きます。シベリアン・ハスキーのグロッキーが警備担当犬さんです。」
そういうと、ドアを開けて一頭のハスキーが入ってきて、軽くお辞儀して、又、出て行った。
「グロッキーさん?ですか?」
「ええ、何か?」
「いや、変わった、何ていうか、お名前ですね…。」
シベリアン・ハスキーと聞くと、どうしても心配せずには要られない。実は、ウエストハイランド・ホワイトテリアのハッピー君が、ハスキーという犬さんを物凄く嫌うのである。散歩の最中にハスキーと会うと、必ず睨み付け、勢い良くダッシュして、すれ違いざまに吠えまくるのだ。
どうしてそんなに嫌うのか、さちお君は理解しかねるが、ハッピー君がボソボソと、「ソリでも牽いとけ!」とか「この、シベリアン・バカスキー!」とか言っているのを聞くにつけても、生理的に合わない何かがあるのかな、そう考えざるを得ないのだ。
「では…」と言って襟を正す担当牛さん「費用の話です。」
(来ましたか…)「はい」
「実は、今回のブライダルに関しましては、予想される参列者の数などから勘案して、かなりの金額にならざるをえないのですが…。」
「大丈夫です。それなりに、稼いでますから。」金色に輝くカードをチラッと見せるさちお君。
「恐縮します。ちなみに…」
「一回払いで。」
「判りました。それとですね、結婚指輪と
「?」
「
「はぁ。」
「ちなみに、新婦が着ける結婚鐘は、材質がプラチナと決っておりまして、良い音を出す為に、両面、鏡面処理が施されるしきたりです。鐘のベルトはカシミアを何十にも編みこんだ最高級品を使いますが、この生地は、我が牧場の羊さん達有志が作りますのでご安心ください。ただ、さちお君の収入に応じたダイアモンドを、鐘のとめ金具の飾りとして入れて頂く事も慣習です。大体、さちお君のお立場ですと、三カラットを二つ程。
「!」
「それなりに高価なお買い物でしょうが、出来ますでしょうか?」
「プラチナのメッキってのは聞かないですしね。」冴えない冗談。「大体、鐘の重さはどれ位なものなのですか?」
「知れいてます。一〇キロ程だと思いますが。」
「!」
「デザインは、ももこ号とも話し合いの場を持たせて頂きます。」
「…判りました。大丈夫だと思います…」
「ところで、こちらのお支払いは…。」
「…リボ払いで…」
お金の話は、もう勘弁して欲しい!
「ところで、僕がつける指輪は…。」
「それは、ももこ号が用意される事となります。慣習に従って、小さな
「重さは…。」
「そうですね、二十程かと。」
「二十キロ!」
「いえ、二十グラムです。」
「は、そうですよねぇ…。」
やけに大きさが違うではないか!
どちらにしても、これも通らなくてはいけない関所の一つ。費用は感情を持たないから、弁慶号の時よりは有る意味気が楽だ。ただ、担当牛さんのその後の会話は、さちお君の右の耳から左の耳へ素通りするだけで、正直、何を言っていたのか、全く記憶が跳んでいる。
そんなこんなで全ての話し合いが無事に終わり、教会を後にするさちお君。一体あと何本、サスペンスに出演しないとダメだろうか…。
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