第7話
何日かして…。
今日は、ももこ号の両親に会う。実家の母親が、何かお菓子でもかって行きなさいと言うから、最初に目に付いたサブレの詰め合わせを、忘れずにデパートで購入した。
それはさておき、父親が経営者なら、実は母親も凄いらしい。どうやら、九州搾乳会会長の、はなこ号がその牛さんらしいのだ。
ところで、九州搾乳会とは、ミルクを生産する、九州地区在住の牛さん達の互助組織である。昔は、人さんを雇ってミルクを搾ってもらっていた。しかし、人さんの技術の違いから、搾りムラがどうしても存在して、乳腺炎になってしまう牛さんが結構居たらしい。これでは、福利厚生の観点からよろしくないと言う事で、はなこ号が先頭に立って、ソフトパット搾乳機の導入を推奨したそうだ。霧島牧場は先陣を切る形で導入。その後、はなこ号の公演が功を奏し、九州の大半の牧場は、その機械が導入され、乳腺炎になる牛さんが激減したのである。
そして、ミルク作りを生業とする牛さんの権利を守ろうと言う事から、霧島牧場搾乳会をはなこ号が作り、牧場単位でその様な組織が作られていく。そして、それら組織の上部組織として、九州搾乳会が作られたわけである。
そういえば、牧場紹介パンフレットに、搾乳機の傍で妖艶な笑顔を見せる牛さんの横に、品のいい牛さんが居たっけ。直前になってやっと知った。こういう事実はももこ号と付き合う初期の段階では知っていたかった。やっぱりさちお君はさちお君。例によって徹底した調査不足…。
ちなみに、「搾乳会認定の搾乳機は、快適な環境の下でのお仕事をお約束します」と言うキャッチコピーがついてたような。
いや、そんな講義はどうでもいいのだ。ももこ号は、きちんと僕の事を紹介したのだろうか。せめて、「それらしい」何かは、匂わせておいてくれなければ、非常にやり辛い。
いつものルートで霧島牧場に到着した。そしていつもの場所に駐車して、4t車に鍵をかける。
焦らず、ゆっくりのスピードで公園を貫く通路を歩く。
アルプスをやり過ごそうとした時、中から誰かが前足を振っている。店長さんだ。「頑張れ!」口元がそう言ってる。そう、そうだった。僕は頑張るぞ!
そのまま暫く歩くと、霧島牧場本社社屋があり、その一角、離れになったような場所が、ももこ号の家である。
一代でこの牧場を築き上げた弁慶号だが、決して派手な事はない。それは家の趣にも現れている。所謂、豪邸と言う感じではなく、瀟洒なオウチって感じだろうか。あのペコペコしてた牛さん達はさておき、人望、じゃなくて牛望が厚いのも頷けるかもしれない。
では、覚悟を決めよう。
呼び鈴は、どこだ?ここか。
押すぞ!
ぴ~ん・ぽ~~ん。
で、早速迎えに出てくれたのは、ももこ号であった。どうみても、それなりに緊張している模様。
「おはよう」と、ももこ号
「おはよう。大丈夫?なんか、緊張してるみたいだけど。」
「うん、緊張してる気がする。尻尾がフリフリ出来ないの。なんか、麻痺しちゃったみたい。昨日ずっと椅子に座って考えてたからかもしれないけど。とにかく、早く終らないかなって感じ。」
「まあ、言ってみたら結婚の報告だけだから、そんなにはかからないと思うけど。」
「ねぇ。」少し不安げなももこ号「反対したらどうする?」
「なんで反対なんか。」
「何となく…結局パパには言えず仕舞だったし…」
「何を?」
「今日の事…」
(と、おっしゃいますと…)
「さちお君が来る事…」
「!」
「ぶっつけ本番でお願いします!」
「…冗談きついよ…」
漏れる溜め息。
万に一つの状況だ。あってはならない状況だ。困った…。しかし、しかしだ、僕も立派な男の子。決める時は、バシッと決めるのです。
「大丈夫だよ。成せば成る。それはそうと、そろそろ入れてくれる?(玄関の前での立ち話もなんだから)」
「あっ、ごめんなさい!どうぞ。」
「なんか他人行儀だねえ。」
「もぉー。」やっとももこ号、笑った。
ももこ号が取り敢えず、リビングに両親を呼び集めた。そのリビングに進軍する僕ちゃん。兎に角だ、決戦の時は来た。角突撃でも、蹄パンチでも、尻尾でビンタでも、なんならバックドロップでも何でも来い!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます