第6話
ももこ号は、そのあとが大変だった。嬉しさの余りもーもー泣くばかり。驚いたアルプスの店長さんが、何事かと駆け寄ってきて、事情を把握して、これまた泣き出してしまった。もう、店中大混乱。「よかったね、よかったね」見知らぬ牛さんや羊さん、カルガモさん、兎に角、店の中に居た皆が祝福してくれるのだ。
問題は、ももこ号。
ダメ、泣き止まない。机の上は、涙と鼻息で水浸し。微妙にメイクも崩れてきてるぞ!さちお君はももこ号をなだめすかして、その場で2時間頑張った。こんな現場を弁慶号に見られたら、極めてヤバイ。出来ちゃった結婚みたいに、既成事実を取り敢えず作ってしまって、結果を報告するような事になるのは大いに困る。僕は、僕という生き物は、そこまでダラシナイ男ではありません。
やっとの事で落ち着いたももこ号を、一先ずオウチに帰す事にした。そして、そう、弁慶号に挨拶に行く旨伝えて欲しいと、しっかり念を押した。今日はこれで帰路につこう、戦略を練る時間が必要だ。
その途中、車を運転しながらふっと思った。
…そうか、結婚するのか、とするならば、やっぱり親類縁者には連絡を入れないとダメだろう。とは言うものの、そういえば僕も、結婚前提に付き合っている相手が居るとは両親にも、あるいは弟や妹にも言ってなかったっけ。いきなり両親にこんな事言ったら、心臓に悪いかもしれない。とするなら、誰に一番に話せばいいか…。
と言う事で、弟のハッピー君に電話をする事にした。携帯電話のアドレスから電話番号を呼び出して…
「ハッピー?」
「やあ、兄ちゃん。げんき?」
ハッピー君は、ウエストハイランド・ホワイトテリアで、五年前に家族になった。入籍した頃は歩くのもやっとと言う感じのおチビちゃんだったが、一年もしないうちに、傍若無人ワンになってしまった。なにはさておき、自己中炸裂、毒舌満開。童顔に物を言わせて、素顔で兄貴や両親を手玉に取る曲者である。
そんなハッピー君は、さちお君より早くに結婚して、奥さんのクッキー、一粒種のポッキーと一緒に、さちお君の実家のある神戸で生活している。
「元気だよ。それはそうと、兄ちゃん、ハッピーに報告があります!」
しばし、ハッピー君、沈黙して、
「なに、また女に騙された?」
「騙された事なんか無いぞ(何を根拠に)!」
「じゃあ、女に馬鹿にされた?」
「さっきとほとんど同じじゃないか。第一、何で女なのさぁ(ぼきゃぶらりーが乏しいんじゃないの?)」
「女絡み、違う?」
違うと言いたいが、確かに、女絡み。
「まあ、実はさぁ」
「なに?早く言ってくれない?おやつの時間なのよ。お母さんに、早くお頂戴しないと、お仕事に行くみたいなんだからさ。」
「わかった。ズバッと言おう。兄ちゃん、結婚するぞ!」
再び、暫しの沈黙。と、
「えぇー、ホントほんと?おめでとう!て言うか、やっとだね。」
「ほっとけ。イケ面&美少年サスペンス俳優は忙しかったんだい(この、毒舌ワン公!)」
「だれだれ、相手は。」
「ホルスタイン牛さんのももこ号っていう子。」
三度、ハッピー君が沈黙して、
「巨乳ゲットですか?」
「別にそういう事では…(クッキーは、そういえば貧乳だよね)」
「画像、送ってよ。」
「ああ、そうする。式には来るだろ?」
「もっちろん。日取りは?」
「決ったら電話するよ。それと、お父さん達にも伝えといて。僕は照れくさいからさ。」
「りょーかい。お電話、待ってまーす。」
…ハッピー君との会話は、妙にストレスが…。でも、憎めない奴なんだよね。
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