第4話  西洋館の下宿人たち・・

「ここは夕食と、朝食はお出ししてます。

できれば、その時間だけは皆さん揃っていただきたいのです、下の食事室に。

お昼は作っておりませんので、皆さんのご自由にお任せしております。

ここにある材料で適当に作っていかれても、坂道の下にあるコンビニや商店でお求めになっても、かまいません。」

花のような笑顔で亜流のあこがれの女性(たぶん)(いや間違いない!!)大家さんが案内する・・天国を・・もとい今日から亜流が住むことになる下宿の中を。

まさに雲の上を歩くようにふわふわとその後をついていくのは、もちろん、亜流となぜか、やはり雲の上を歩くようなふわふわとした足取りの不動産屋さん。


通された部屋には長いテーブル、白いテーブルクロス、赤いベルベット張りのいかにもな西洋椅子(もちろん、歴史ものに出てきそうな西洋式の椅子・・わかりますよね?え?詳しく説明をって・・・それはもちろん、猫足で背もたれが縦長で、彫刻の入ったあの、椅子ですよあの!!)


「まずはお掛けになって、名簿を作らせていただきますわ」

静かにその椅子を引き手招きで座れと促され、コクコクとうなずきながら椅子に座る亜流。

その横には当然のように不動産屋さんが自分で椅子を引いて座った。

「ああああの~名簿の前に不動産契約をいたしましてもよろしいでしょうか?」

上ずった、ひきつったようなかすれ声で不動産屋さんが大家さんに伺いをたてる。


「あらあら、高橋さん、そうですわよね、まだこのお嬢さん、お名前も伺っていないし、ここに下宿してくださるかも聞いてませんでしたね」


二人の前の席に座して、亜流のあこがれの女性=お嬢様=突然姿を消した天才ピアニストは、こくりとうなずいた・・・絵になる実に絵になるのだ、どんなしぐさをとっても!!

亜流と、不動産屋は同時に心の中で叫んでいた。

偶然にもこの二人はかなり昔から、この女性のシンパなのである。


「茂乙亜流(もおつ ある)さん?まあ、まるで音楽の神様(モーツアルト)とよく似たお名前ですのね」

「はぁ、父親がすごく駄洒落好きで、子供ができたら女の子でも、男の子でも最初の子供にはこの名前を付けるって決めてたらしくて・・・もちろん名字の茂乙はダジャレではありませんよ。しかも、男の子だったら亜流斗になってたとです、つくづく女でよかったなぁと思ってます」

「まあ!モオツアルト(茂乙亜流斗)なんておちゃめなお父様なんですね!」

「はあ、おちゃめで済めばいいのですが、実際にその名をつけられたら・・つらいですよ」

「うふふ、よかったですね女の子で、亜流ちゃんなんてとってもキュートなお名前ですもの」

キュートだと言われてしまった、今までいささか恨めしかった名前なのにこの憧れの女性から言われるとすごく嬉しい。

これは何かの啓示なのかしら、思いがけない転居騒動で、思いがけない人と出会えるなんて!

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西洋館なの!! @kazekko

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