第2話 夜明けを待つ男
ああ、また夜明けが来る・・・
うっとおしい、せっかくのまどろみの時間を邪魔しおって!!
夜明けというものには情けはないとか!!
こんなにも心地よく夜のとばりに包まれてるこのおいの眠りを邪魔するとは笑止千万!
おいはこの国の夜明けを作った男たい!!
そいがなんで夜明けとともに眠らねばならんかったとかわからん、まったくわからん!!
あの頃おいの心は、こん国の夜明けのためにだけに息づいとった。
こん国の夜明けがおいのまことん夜明けじゃったはずやとに・・・
おいの名前は・・・な・ま・え???
なんじゃ、おいの名前はなんじゃ・・わわすれた?!!
こん長い眠りが、おいの記憶をすり替えた、今ではしがない、夜の男。
自称夜を生きる男バンパイアということで萬 杯亜(ばん ぱいあ)と名乗ってるがそれは、かりそめの名前のはず・・
おいの、名前は・・・
名前は・・・
萬杯亜。
長崎の夜の街丸山にその人ありといわれたイケメンホスト・・
そんな馬鹿な!!
おいは、どいだけなごうこん世界にしばられてしまったのか・・・
おいは・・おいのまことん名前はなんじゃったのか・・
棺桶型のベッドという悪趣味なベッドの上で、自他ともに認める夜の帝王、実に長崎一の女たらし?は、今日も夜明けを待っていた。
彼には、彼の思いだしうる記憶の中で、まさに150年前この国が維新の嵐に吹き荒れていたその時期、国の夜明けを待つ仲間たちと奔走していた記憶があるのだ。
そうして、幕府の役人に追捕され、逃走していた途中に、入り込んだ西洋館で、カーミラと名乗る異人にかくまわれ気が付けば年を重ねることもない我が身へと転じていたのである。
やがて150年の年月を経て・・今も変わらず、この西洋館で暮らしている。
下宿屋といわれる、この西洋館の店子は日々に代われども、なぜか誰からもとがめだてされずに、この長い年月を住み続けているのである。
リ~~ン
各部屋に取り付けられているベルの音がする。
ああ、夕食の時間か・・
この下宿での決まり事、夕食と朝食だけは必ず、一階の食事室で、この建物の住人すべてで、食事すること、但しほかにに用事があるときは免除される。
幸か不幸か、萬は、夕食の時間帯に起きて、食事ののちに仕事に出る。
仕事が終えて帰ってくれば朝食でそれが終わればひたすら、眠りに落ちる。
この建物の住人と顔をあ合わせるのは、ほとんどそれだけで、しかも、もう一つの決まり事下宿人同士が詮索をしないことのおかげで、実に長いことこの建物で暮らし続けている。幸い下宿人たちが短期に入れ替わってくれる、学生がほとんどで、しかも、ほとんどの者たちと入れ替わりの生活をしている萬はまさに150年以上ここで暮らしていて、誰からも疑問を持たれないのだ。
まあ、疑問を持たれたとしても、特技の魅惑の魔法で、その疑問を消し去ってきたのだけれど。
だが最近萬は自分の魅惑の魔力が衰えているのではないかと、疑問になっている。
ここの、新しい大家と、その大家の友人母娘に、まったく魔力が通じないからだが・・・
もちろん、萬は知らないだけだ、ここの大家が並外れた感性の持ち主で、観える人で、人も人ならざる人にも、まったくの区別なく接することのできる稀有な人間であることを。
その友人はまた違った意味で、さまざまな種類の人間に全く動じない種類の人間であることを。
その娘に至っては、信じられぬほどの美少女でありながら、実は男であることを。
それらの事実に気が付けば、自ずと疑問は解消されるのだが、まあ、今のところ
多少不審な日々を送る男である。
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