西洋館なの!!

@kazekko

第1話 少女と西洋館

桜の花が万欄に咲き誇る4月。長崎。

長い坂道のその上にある某女学園の入学式が終わり、着飾った少女たちが降りてくる、その中で、一人の少女が頭を垂れ満開の花とは不釣り合いのため息をつきつつ、歩いている。

トボトボと、まるで瀕死の老犬のごとく・・なぜ?

幸多き未来を手にしたはずの?まあ未来というほどの立派なものでもないありふれた未来だろうけど、とにかく未来を手にした少女であるはずなのに・・なぜ?

少女の歩みは緩慢でとても十代には見えない。

実際に彼女は三月に高校を卒業したばかりなのだから18歳なのに!!、まるで、人生に落伍したかのごとき歩み・・

やがて、一軒の不動産屋の前で立ち止まり、深~~い深呼吸をする。


「なんだってぇ!!」

机の前で前頭部が薄くなっている不動産屋のおじちゃんが、素っ頓狂な声を上げる。

「今日が入学式だっていうのに、今更住むところを探してるなんて、一体全体どんなお気楽さんだい!」

眼鏡越しに不動産屋のおじちゃんが、ため息交じりに目の前にいる、お客さんを見た。

少女は肩をすぼめふっと小さな息をつくとポツリと答える。

「だって、先輩のアパートに同居させてもらうはずだったんですもの。先輩のアパートは部屋が三つもあるから大丈夫だって、言われて・・・」

いかにも大きな瞳から涙をあふれさせんばかりに・・・

思わず不動産屋も同情の目で少女を見る

「それがどうして、はいれなくなったの?」

「先輩に好きな人ができたんですって・・それでその人と住むから他を探してくれって」

「ありゃまあ、大学生ですねかじりのくせに、同棲するってかい?親御さんは知ってるのかい?」

額に手をあて、大げさなリアクションで不動産屋は少女に尋ねる。

「知らないと思う、だから私も今日まで先輩の部屋をシェアするつもりだったんだから。

お願いです今日から入れる下宿紹介してください」

「そんなこと言われてもねぇ、たいていが入学が決まった時点で部屋探しするから、入学式の当日に余ってる所に条件のいいところなんて、ありゃあしないよ。

しかもすでに住んでる学生だって、この時期に目をつけてた先輩の部屋に入れ替わりみたいに移っていくからねぇ・・・下宿で食事付きでなんてのはぁ・・・あっ、あるある、一軒だけあるけど、一つ欠点があるんだよね。」

とんと両手の握ったこぶしを打ち鳴らし、うなずきながらの不動産屋の答えに。「欠点?」不安そうに少女が問いかける。

「そう、風光明媚で見晴らしがいいんだけど、すごい坂の上だから、行き来するのが大変、しかも相当古い家だ。今どきのエアコンもないし、しかも、エアコンがないのは、条例のせいで、これから先もつく可能性がない。お風呂はあるけどシャワーなんてしゃれたものはない。それでもいいなら、一軒だけ今日にでも入れるところがある。」

「入れるんだったら、どこでもいいです!坂の上でも墓のそばでも・・でも、条例でエアコンがつけられないって??」

「墓のそばってことはないけど、古い家だからね何かと不便だよ。しかも坂道を延々と登っていかなければならない。お嬢ちゃん体力には自信があるかい?」

「体力なら、一応人並かと・・」

「そうだね、今どきのお嬢さんの体系だから、ほっそりはしてるけどげっそりということはないから、たぶん普通だろうね」

「じゃあ、大丈夫だということで、善は急げだ、行ってみよう」

ぽいと、マリのようなものを投げかけられ、ぽいと掴んだ少女は?マークの瞳で其のマリのようなものを見つめた。

ここれって・・・

ヘルメットよね??

疑問符だらけの少女を後ろに不動産屋も、ヘルメットをかぶってる。

「さあ。行こうか、わが愛車ハーレー君で!!」

「えええ~~~」少女の叫び声をBGMに、軽快に長崎の坂道をハーレーダビッドソンに乗った不動産屋と、その隣にあるサイドカーに乗せられた少女が走る!!!!

軽快に軽快に坂道を上へと、風に舞う桜の花びらを振り切りながら。

少女の叫び声の後ろには抜けるような青空と語りかけるような桜の花びらが降るのみ。

今日からの少女の未来がどうなるかは、知る人ぞ知る!!

いや誰も知らない。


坂の上の、広々とした、お屋敷?

少女にはそう見えた。

坂の上は結構開けた土地で、木も茂りきれいな庭もあり、何よりも、すてきな西洋建築の家があった。

西洋建築といっても、それは今はやりのモダンな洋風住宅ということではなく、間違いなく、歴史ある過去に建てられた、長崎ならではの、本物の西洋館なのだ!!

愛車のハーレー君を木陰に移すと、不動産やさんは、ヘルメッをトサイドカーにしまい、ネクタイをきちんと締めなおして、少女に言った。

「さあ、大家さんに会いに行こう」


きれいにそろえられた芝生が目にもまぶしい黄緑色。

その芝生の中にレンガに囲まれた花壇が点在して、そこは満開の春の花!

こんなにも見事な庭と花壇、その花々に羽を休める蝶々の可憐さ、現代っ子の?多少どじっこの少女は、その庭にたたずみうっとりと、ほほ笑んだ。

「ほんものの、本物の西洋館だぁ!!!!」


そこには、歴史で見るような本物の西洋館が、しかも、今も人が住める西洋館が存在した。

今日から少女も、ここの住人になれるかもしれない、少女の心音が聞こえるような歴史のため息が聞こえるような、現実と過去と未来が交差したような不可思議な美しい建物がそこにあった。


少女の名は茂乙 亜流(もおつ ある)この春この町の大学の音学部ピアノ科に入学したばかりの夢見る乙女である???

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