わたしも、いなりを愛してる

笛吹ヒサコ

ダーリンのための、いなり寿司!

「これでよしっと」


 いなり寿司でうまった寿司桶に、思わず顔が緩んでしまう。


「これで、ダーリンもイチコロね」


 我ながら、美味しいいなり寿司ができたではないか。

 ダーリンとわたしの愛の巣は、狭いワンルーム。

 いい感じに年季の入ったちゃぶ台の上に、寿司桶を置く。あとはダーリンの帰りを待つだけ。


 と思ったら、ダーリンが帰ってきた。


「ただいまぁ」


「おかえりなさい、ダー……」


 わざわざ玄関まで出迎えに行こうとしたわたしの横を、目にも留まらぬ速さでダーリンが駆け抜けた。


 もぅ、ダーリンったら。


「いっただきま~す」


 いなり寿司に目がないダーリン。

 「んまっ」とか、「サイコーなんだけど」とか、歓声あげながら手づかみで、いなり寿司を頬張ってくれる。




 ――かかったな。


 いなり寿司に目がないダーリン。

 明るい色の髪の中からかいま見えるキツネ耳と、フッサフサの尻尾が、生えてきた。


 これよ、これよ!

 あー、もう我慢できない!


「葉子のいなり寿司、サイコー! うますぎっ」


 ダーリンの尻尾も、サイコーよ。

 艶やかな毛並みに顔をすりつけて、全力でモフモフ。

 このモフモフを独り占めできるなんて、わたし、幸せ!


「ごちそうさまでした。って、葉子?」


「んー? ダーリン、なぁに?」


 もともと細い目を、さらに細めてわたしの顔をのぞき込んでくる。

 ダーリンったら、ほっぺにごはん粒くっつけちゃって、可愛い。


「言ってくれれば好きなだけモフらせてあげるって、言ったよね? 僕は葉子を愛してるんだから」


「知ってる。わたしも、いなりダーリンを愛してる」


 だったらなぜと、首を傾げながらも、ダーリン―化け狐の威鳴いなりはその尻尾で器用にわたしの頬をなでてくれる。

 ダーリンが、照れてる証拠ね。


「わたしは、いなり寿司を全力で食べているダーリンを、モフるのが1番好きなの!」


 ダーリンは、少しだけ細い目を目を丸くして、それから笑顔で尻尾でわたしをくるんでくれた。


 本当に、幸せすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしも、いなりを愛してる 笛吹ヒサコ @rosemary_h

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ