第15話「消えた背中」

 ◆展開、表現上、詳細な事故描写があります。

 *********************


 七月の半ばになると、夏休みに入る学生の動きで世間は騒がしくなった。株式会社ジモテックは他の企業と同じく、浮かれた若者を横目に通常営業を行っている。社長とともに取引先を回り戻ってきた猫戸に、文恵がピンク色の可愛らしい封筒を差し出した。

「猫戸くん、コレ見て欲しいんだけど」

「何でしょう?」

 言いながら受け取った封筒には、ボールペンを使用した味のある字で「ねことくんえ」と書いてある。中を開けるとそこには何かの会場の案内が印刷されたカードと、お姫様のようなイラストから吹き出しが出て「ぜったいきてね」と書いてある。文恵が腕組みをしながら言った。

「梨花が夏休みに入るんだけど、教わってるピアノ教室の発表会があるのよ。猫戸くんに見に来て欲しいって昨日わんわん泣いちゃって、とりあえず泣き止まそうと思って書かせたんだけど、意外と力作だったから」

 容易に想像できるワンシーンだった。梨花と文恵の母子らしいやり取りが合った事にも心が温まる。猫戸が思わず微笑んだ。

「そうですか。行けるか、ちょっとスケジュール見てみますね」

 言った猫戸を文恵はやや驚いた表情で見返している。

「――猫戸くん、ちょっと変わったわね」

「はい?」

「私『無理して来なくてもいいわよ』っていう言葉を用意してたんだけど」

 猫戸は何と返答したら良いのか分からず、口ごもった。それを怒りと取ったのか、文恵は「もちろん来て欲しいのよ」と付け足した。猫戸が苦笑いを浮かべて言った。

「いえ、前向きに、行かせていただきたいと思います」

 文恵の頬に穏やかな笑みが浮かぶ。

「ありがとう。母親としての役目がちゃんと務められそうだわ。――あ、そうそう。コレも」

 文恵はルイ・ヴィトンのバッグの中からもう一つの封筒を取り出して猫戸に差し出した。それを見て、猫戸が思わず噴き出した。猫戸の反応を見て文恵も肩を震わせて笑いを堪えている。それを、営業管理課の面々が吃驚した様子で見ていた。露骨な興味を持った視線から逃れるように背を向けて、猫戸は震えながらそれを受け取り「しょ、承知しまし、た」と呟いた。


「なんだよこれぇー!」

 公園に響き渡るやかましいくらいの蝉の声に負けず、立川の一言は青空に突き抜けた。立川の手には文恵から猫戸経由で渡された可愛らしいピンク色の封筒が握られている。そこには、梨花の渾身の直筆で「たちかわくんえ」と書いてあったが、その「たちかわ」の部分が赤いペンでグルグルと消されて「ゴリラ」と書き換えられている。

「いやぁ、す……すごい気合入ってるよ、それ」

 立川の反応に腹を抱えて笑いながら、猫戸はヒィヒィと呼吸をしつつ続けた。

「俺なんか普通に『ねことくんえ』だけだったから、うらやま……うらやましいレベルで……」

「笑ってんじゃないか!」

 立川がカードの中を開いて、愕然とした表情を浮かべた。

「中のカードも『ねことくんときてね』だし!なんなんだよ俺の雑な扱いは」

 頬を赤くして口を尖らせている立川を見て、猫戸の笑いは止まらない。「もー」と不服そうに言って、立川は丁寧にカードをしまいながら言った。

「なんか、ジブリの曲練習してるんだって?」

「へ?」

「練習したりしなかったり、機嫌ですっごい変わるって佐夜子さんが言ってた」

「……」

 猫戸は笑った口の形のまま、動かなくなった。気づかない立川は、アイスコーヒーを吸い上げている。

「動画見る?」

 言って立川がスマートフォンを取り出して弄ると、猫戸の目の前に差し出した。立川と佐夜子のやり取りの中で、梨花の練習する姿が動画で送信されてきていた。それが、今猫戸の目の前で再生されている。

 有名なジブリのアニメの曲を練習している梨花は、サビの二小節程で躓き、それを三回弾き直しても弾けず、突如ピアノの前から立ち去った。佐夜子の「梨花ちゃん、発表会近いよ~」という声が入っている。「出ない!」という強情な梨花の返答に、佐夜子が「猫戸さんも来るかもしれないよ~」とけしかける。梨花がドタドタと走り戻ってくる足音までで、動画は切れた。

 猫戸が差し出されていたスマートフォンを手で横に退かした。

「佐夜子さんと、まだ連絡してんのか」

「えっ?するだろそりゃ」

 何言ってんだこいつ、と今にも言いそうな目線で立川が猫戸を見ている。猫戸は眉間に皺を寄せて小さく言った。

「して、んのか…………そっか」

「なんだよ、しちゃダメ?」

「ダメ、じゃない」

 猫戸は深く項垂れて溜息を吐いた。立川がスマートフォンを弄りながら優しい笑みを零す。

「だって、康英くんも超カワイイよ」

「……」

「佐夜子さんだって、何かの時に頼れる人が居た方がいいだろうし」

「そうだよな、お前はそういうヤツだ」

「なんだよーその言い方」

 立川は笑いながら言うと、項垂れる猫戸を見た。

「で、猫戸は行くの?」

「――立川はどうすんの」

「俺は、お前次第だよ。だって『ねことくんときてね』だもん。俺だけ行ったって意味ないだろ」

「そうだな」

 答えると、猫戸は背筋を伸ばして前を向いた。その頬に汗が伝う。クラッチバッグから白いハンカチを取り出すと、汗を拭きながら猫戸が立ち上がった。

「アッチィから戻らねぇ?」

「うん」

「発表会は、行こうと思う」

 その言葉を聞いて、立川は嬉しそうに笑った。

 二人で会社へ戻りながら、猫戸はそっと立川を見た。ふと目線が合った為、慌てたように言葉を絞り出す。

「あのさ、発表会が午後二時からみてーだから、昼メシ一緒に食おうぜ」

「いいね」

 アイスコーヒーを一口吸って、立川がヘラヘラと笑った。

「お前から食事に誘ってもらえるなんて、俺も昇進したもんだなぁ」

「俺だって、相当成長してるだろ?」

 言って、猫戸は一瞬言葉を切って逡巡した。

「――いや、立川のレベルに合わせられるってことは退化なのか?……ゴリラへの退化か?」

「ゴリラじゃないって何度言ったら理解してくれるんだよ、お前らは」

 立川は笑いつつ、猫戸の肩を叩いた。二人の平穏な日常だった。



 そうして、七月末の日曜日がやってきた。梨花にとってはピアノの発表会という晴れ舞台だ。繁華街にある小さなホールを教室で貸し切って、五歳児から中学三年生までがその腕前を披露する。年齢によりグループが分けられてそれぞれの発表が行われるため、梨花の登場は午後二時からの予定だった。

 梨花の発表会の二時間前に繁華街の最寄り駅に降り立った猫戸の前に、一台のロードバイクが風のように走り込んできて停まった。ぎょっとした猫戸が後ずさる。

「おっす!」

 ロードバイクに跨った立川が、サングラスと流線形のヘルメットを外しながら白い歯を見せて笑った。ぴったりと立川の体を包み込むウェアは、筋肉の隆起や染み込む汗をより誇張して見せてくる。猫戸の顔には『ドン引き』の四文字が張り付いていた。

「立川……お前、何、自転車で来てんの」

「最近体がナマッちゃってたからさー、ちゃんと着替え持ってきたよ」

 立川の言葉通り、背中にはバックパックが背負われていた。立川はロードバイクを猫戸に預けると「ちょっと待ってて」と言うなり、駅のトイレに入っていった。しばらくするとそこから、半袖のシャツとチノパンに着替えた立川が現れる。

「ごめんごめん、ありがと」

 言って駆け戻ってきた立川からは、汗拭きシートで身体を拭いたのか爽やかなミントの香りが漂った。猫戸がロードバイクを立川に明け渡すと、転がしながら歩き始める。そこで初めて立川が猫戸の荷物に気づいた。

「あれ……猫戸、傘持ってんの?」

「うん」

 猫戸の手には、赤い長傘がぶら下がっている。立川が不満げに「えー」と声を上げた。

「今日、雨降るなんて言ってなかったぞ」

「いや、天気予報で言ってたよ。にわか雨って言ってたけど」

「なんだよ、それー。自転車乗って来ちゃったよ」

 子供のような不満を漏らす立川を見て、猫戸は笑った。立川が釣られて笑いながら言う。

「やっぱり猫戸はその傘なんだな」

「え?」

「にわか雨でも長傘なんだなぁって思って」

 歩きながら傘を持ち上げて見て、猫戸が頷いた。

「そうだよ、秘書が折り畳みじゃ恰好付かないだろ?康男さんに恥ずかしい思いさせられないし」

 猫戸の答えに、立川は尊敬の思いすら抱いて赤い傘を見詰めた。

 立川の薦めで、二人は会場から少し離れた場所にある創作和食料理屋に入った。ランチ営業をしており、店主のこだわりの料理がリーズナブルに楽しめるという立川の説明に、猫戸が乗った形だ。

 猫戸の前には注文していた豚の生姜焼き定食が、立川の前には唐揚げ定食が置かれる。生姜の良い香りが食欲をそそった。

「美味そうだな!」

 猫戸の瞳が輝いた。立川が「いただきます!」と手を合わせて、バクバクと食べ始める。猫戸が味噌汁を飲んで、立川に問いかけた。

「なぁ、ここから会場までどのくらいかかる?」

「んー、大体歩いて一〇分しないくらいかな」

「そっか、じゃあ一三時三〇分くらいにはここを出ときたいところだな」

「おう、余裕だわ」

 白米とおかずの配分を考えながら立川が唐揚げを掴んだ時、窓を小さな滴が打った。

「――あ、雨?」

 立川が言うと猫戸も窓を見た。水滴は斜めに次々とぶつかってきて、やがて大きな固まりとなって流れ落ちて行く。窓の外はみるみるうちに白く煙ったようになり、視界を奪った。

「うわぁ、にわか雨っつーかゲリラ豪雨だな」

 猫戸の言葉を聞いて立川が頷いた。外では人影が右往左往している。店の入口に三人組の女性が飛び込んでくると「うわー、なにこれ、無理無理、もう進めないって」「ここにしよう」と話をしている。察しの良い店員が、タオルを持ってグループに近づいた。

「俺みたいに、雨のこと知らなかった人がいるな」

 立川が言う。

「にわか雨だけだったらまだ大丈夫だけど、こんだけ降られちゃなぁ」

 同情の視線を女性グループに向けている立川に向かって、猫戸が聞いた。

「自転車大丈夫なのか?」

「ん?」

「雨ざらしになってるけど」

 猫戸の言葉に、立川は苦笑いを浮かべつつ「あー、うん」と頷いて言った。

「濡らしたくないのが正直なところだけど、こればっかりはね。帰ったらちゃんとメンテナンスするよ」

 言って、立川は目の前の唐揚げと白米を片っ端から片付けていく。猫戸が呆れた。

「ちゃんと味わってんのか、お前」

「味わってるよ、醤油が効いてて美味しいぞ。一個食べる?」

 立川が上目遣いで猫戸を見た。猫戸は眉を上げて瞬きをすると、笑って箸を持った手を伸ばし、立川の皿から唐揚げを一つ奪った。

「アッ」

「なんだよ、今更返せとか言うなよ」

 立川は本当に取られると思っていなかったのか、素っ頓狂な声を上げたきり動かない。猫戸が小さく「そんなにショック受けるくらいなら言うんじゃねー馬鹿」と呟いた。

「おい、立川……ほら、コレ一枚やるよ」

 猫戸が自分の豚の生姜焼きの乗った皿を、ずい、と立川に寄せた。立川は疑うような瞳で猫戸を見ている。

「――いいの?」

「いいからとっとと取れよ、いらねーなら別にいいけど」

 言って皿を引き戻そうとした猫戸を、立川が慌てて止める。そうして、箸で猫戸の皿から豚の生姜焼きを一枚取った。豚の生姜焼きの一枚は、その皿の大部分を占める重要な一枚だ。猫戸のおかずが一気に減ったのを見て、立川は思わず笑った。

「ごめん、物々交換が成り立ってなかったわ」

 言うと、自分の箸を使って、猫戸の皿に唐揚げをごろごろと移した。猫戸が慌てて止める。

「おい、おいもういいよ、ありがとう、そんなに食えねぇって」

「残すなら俺にちょうだい」

「うん」

 二人が食事を進めていると、雨音は静かになっていった。陽射しが戻り、濡れたそこかしこをキラキラと輝かせた。外を歩いている人は、まだ傘を差している。猫戸は手を合わせて「ごちそうさまでした」と言うと、満足げに息を吐いて窓の外に視線を向けた。

「小雨になったみたいだな」

「良かったよ、あの雨の中、ロードバイクは転がすのもきつい」

「よし、この隙に行くか」

「おう」

 二人は会計をすると店を出た。軒下から見ると、陽射しはあるが、傘を差さないと微妙に濡れるという絶妙な雨足だ。

「虹が見れそうな天気だ」

 言って微笑み、猫戸が赤い傘を差した。水を溜めて光を照り返す路面から、目映いばかりの反射光を受けて、赤い傘がまるで発光しているように見える。

 その下にいる猫戸は口元に笑みを湛え、立川を見やると僅かに傘を上げて「ん」と言った。

 猫戸の姿を見た立川が、白い歯を見せて笑った。その笑顔はまるで子供のように純真で朗らかだ。頬は喜びで紅潮している。釣られて猫戸が笑い出した。

「なに?どうしたんだよ立川」

「すっごい、すごい嬉しいんだよ、本当に。見てよ鳥肌立っちゃったぞ」

 言いながら太い腕を晒して見せ、店先に停車させてもらっていたロードバイクの鍵を外して自身の右側に立てる。そうして立川は、待っている猫戸の差す赤い傘の下へ潜り込んで、隣に立つ猫戸を間近で見下ろした。

「ずっと、ここに入ってみたいって思ってた」

 立川が照れ臭そうに笑う。

「雨の日に、猫戸が差すこの赤い傘を、ブースの窓からずっと見てたよ」

 猫戸は驚いたように目を丸くしてから、視線を行先に向けて歩き出した。猫戸が歩幅を立川の歩みに合わせて小さくしていることに、立川は気づいていた。

 歩きながら、猫戸がぶっきらぼうに、おもむろに問いかける。

「ブースから?あんなとこから見えるのか?」

「うん。康男さんの事濡らさないように、お前先に降りてくるだろ」

「……よく知ってんな」

「だから、見てたって言ってんじゃん」

「ストーカーかよ」

 猫戸は不機嫌そうに言ったが、陽の光に透ける傘から赤い影を受けてもなお、それでも分かるくらいに赤い耳を晒している。立川はハハハと笑い、ストーカー発言を否定しなかった。


 くだらない事を喋りながら歩いていると、いつしか会場が近づいてきた。片側二車線の国道を渡った先にある、雑居ビルの六階にある貸しホールが目的地だ。スマートフォンに開いたマップを見て、猫戸が立ち止まった。

「――向こう岸の……」

 言い掛けて顔を上げた猫戸は、車道を挟んだ向こう側にオレンジ色のドレスを着た梨花が、友達や親たちと居るのを見た。微かに「ネコトくん!」と呼ぶ梨花の声が聞こえる。小雨の中に飛び出した梨花のドレスが翻り、真っ白な靴が輝いたその時、車道の信号が赤に変わった。

「梨花ちゃん……!」

 猫戸が叫んで一歩踏み出した。青のうちに渡りきらなかったトラックが速度を上げて進んできている。

 全てがスローモーションになった。猫戸が投げ出した赤い傘が歩道に転がるのと、猫戸の肩を逆に強く引いた立川が飛び出すのが同時だった。後ろに力がかかった猫戸は、立川の広い背中を一瞬見た直後に、青空を仰いで滑るように後転した。車道で凄まじいブレーキ音に衝撃音が重なった。

「梨花!」

 文恵の叫び声が響いた。まるでつんざくような悲鳴だった。聞いた事の無い文恵の取り乱した声に、猫戸は心臓が激しく打つのを感じた。自分の目前に、普段見ることのない歩道の砂利を見た。「事故だ」「救急車呼べ」という人々の声が湧き上がる。

「……いってぇ」

 言って体を起こした猫戸は、目の前の花壇にトラックが乗り上げているのを見止めた。大きなタイヤの下では、立川の愛車が細いフレームをぐにゃぐにゃに曲げて無残な姿を晒している。

「嘘だろ……」

 トラックが停車しているせいで、その先で何が起こっているのかが分からない。一向に進まない車線に苛立った後方の車両からけたたましいクラクションが鳴らされていたが、猫戸には聞こえなかった。ただ、ドクドクという心臓の音だけが全身に響いている。震える足で立ち上がり、鉄塊と化した立川の愛車をちらりと見て、トラックの前方に回り込む。

 自然に集まった人垣は、トラックの停車した位置よりも一〇メートル程先にあった。人を左右に避けながら進むと、そこにはオレンジ色のふわふわとしたドレスを着た梨花が倒れている。文恵と俊明がそばで泣きながら「梨花!」と名前を呼んでいる。猫戸はぼんやりと視線を巡らせた。もう一つ、人垣がややトラックに近い位置にあった。ガクガクと震える足が言う事をきかない。

「うそだ」

 呟いて、よろめきながらそこに近づく。

 立川が履いていたスニーカーが落ちている先に、立川のバックパックが落ちている。そのすぐ脇に、立川が倒れていた。立川のかたわらに知らない人が座っているのを無言のまま手で退かして、猫戸が横にひざまずく。周囲の人は関係者が来たのを察したのかやや身を引いて立っている。立川は頬に大きな擦り傷を作り、膨らむように滲み出た血液が雨に流され顔の横に流れた。濃い眉の下の瞳は閉じられ、まるで寝ているようだ。

「立川」

 緊張で張り付いた喉をこじ開けて猫戸が声を出すが、立川は反応しない。ゆるゆると手を出して、その頭を持ち上げようと左手を入れたところで、後ろに居た男性から「動かさない方がいいですよ」と止められる。そうして引き出した左手には、血液が付いていた。猫戸の全身から、血の気が引いた。

「立川……立川!」

 猫戸の呼びかけに、わずかに立川の唇が動いた。

「立川、しっかりしろ、なぁ!」

「ねこと……おれ」

 薄く開かれ、焦点の合わない立川の目線は宙を見詰めている。

「おれ、しぬ?」

 突然の立川の言葉に猫戸の唇が震える。大きく首を振って、地面の上に投げ出されて動かない立川の手を握る。

「ふざけんなテメェ、マジで」

「キス、してくれたら、逝ける」

「するわけねぇだろ!」

 大声で言った猫戸の言葉にふと笑みを零して、立川は瞳を閉じた。

「し……て、たまるか!」

 猫戸が歯を食い縛って、唸るように声を絞り出した。

「立川……!立川、しっかりしろ!」

 声を掛けても反応は無い。しばらくすると、濡れた地面に立川の血液が広がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る