その3 コールセンター
なおちゃんは引き続き18歳だった。
バレンタインは終わったが、4月までもう少し。なおちゃんは更に稼ぎたいと思った。次になおちゃんが見つけた短期バイトはコールセンターだった。大学の受験シーズンの今、通信教育の会員に受験結果を聞いて合格実績に載せていいですか?と聞くらしい。コールセンターと聞くとちょっとびびってしまっていたなおちゃんだが、何だかそれならできそうな気がした。
簡単な研修ではロールプレイングと言葉づかいを習った。「ございます」を言い慣れていなくて、ちょっと練習が必要だったが、なおちゃんはおおむねスムーズにこなすことができた。イヤホンマイクで電話するというのが、なおちゃんの気持ちをあげた。なんだかカッコイイではないか。
職場は家から自転車で15分もかかったが、オフィスという感じのビルで働くことはなおちゃんの自意識を非常に満足させた。バイトをしている人も大人が多かった。社員のお姉さんが「言葉づかいが身につくので就職活動に役立つ」と言っており、なるほどそういうものかと思った。
初めて見知らぬ人に電話するのは勇気がいったが、一度やってしまえば平気だった。電話し続けることも意外と苦にならなかった。保護者の人や会員本人に受験結果を聞いて、通信教育の合格者実績として掲載してよいか聞く。シンプルだった。会員の人に電話する仕事なので、そんなに冷たい人もいなかった。しかしながら、向こうもまさか同じ年の同級生がかけてきてるとは思わないだろう…。
同じ通信教育をなおちゃんもはるか昔、小学生の時にやったことがある。毎月の課題をためまくって全く出さず、お母さんに怒られて1年でやめた。同じようにやっててもこれで大学に合格するなんて、差が出るもんだ。
不合格の人の時はいたたまれなかったが、合格の人には心からおめでとうと言えた。たいてい実績の掲載を了承してくれる。しかし、手こずった人が二人いた。
「合格はしましたけど、載せないで」
「えっ」
「通信教育は頼んでたけど、実力は自分でつけたの」
「な、なるほど…」
「だから実績とか言われたくないの」
「か、かしこまりました。では、非掲載ですね」
「そう思うでしょ」
「確かに、実力は自分でつけるものかもしれません」
なおちゃんは実力もないままぽっこり合格なのでそんなことは言えない。しいていえば「この大学近所に受験会場あるよ」と教えてくれたクラスの美香ちゃんのおかげだ。
「息子は関○学院に合格したんですけど…」
「おめでとうございます!」
「まぐれなんです、これ」
「いやいや」
「本当にまぐれなんです」
「そうおっしゃいますが、やっぱり息子さんの実力ですよ」
「いえッ、まぐれです!だって龍○も京○も大阪○大だって落ちたのに!」
それはたしかにまぐれと言える戦績だった。ありがたく実績に掲載させて頂いた。
そんなこんなで、なおちゃんは何百人にも電話をして、見知らぬおばちゃんやおっちゃんや高校生と話して通信教育の合格実績の数をちょっぴりふやした。時給900円。座っていても怒られないし、とてもいい。なおちゃんは3月ギリギリまでこの仕事で働き、計12万円ほどを稼いだ。
なおちゃんがコールセンターで学んだこと
・賢そうな感じのトーク(と自分で思っている)
・知らないおばちゃんと電話で仲良くなる技
なおちゃんがコールセンターで学べなかったこと
・自分の受験における実力は結局どうだったんだろう
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