第7話 解散宣言
ここでMCなんですけどー。と黒髪ツインテールの子が切り出す。その一声に、皆が横一列に整列する形で落ち着いた。
しきりに俺のことを見る凛々花だったが、なんとか作り笑いをして誤魔化している。
いや、誤魔化しきれてはいないのだが、まあここで茶々を入れるのもおかしいと思いつつ、俺は黙って見ていた。
「三曲やってきましたけど、皆さん楽しんでもらえましたかぁー?」
ツインテ娘がマイクを客席に向けると、一同に歓声を上げる。
「……2曲目、大変だった」
「そうそう、リリってば振り付け覚えないんだもん」
青髪ロングのちびっ子に、黒髪お団子の女の子が同調する。
それに対して凛々花は、慌てたように口を開いた。
「――ん、ああ。そ、そうそう! 私ってばリアル学校が大変でねっ!」
『大丈夫だよぉおお! リリちゃあああああん!』
バンダナ男に尋ねたい。何が大丈夫なんですか?
そんな身内話が続き、最終節にさしかかろうとした所だ。
話を切り出したツインテ娘が、言葉をつまらせながらモノ言う。
「えっと……ここで重大発表があります」
客は、さっきまでの盛り上がりがウソのように黙り、ちらほら小言で会話をし始めた。
「もしかして新メンバー?」とか「メジャーデビューキタコレ」とか、ポジティブに捉えるものもいれば、「やっぱりあの不祥事が……」とか「これは不穏な空気ですね」とか、マイナスに捉える人もいる。
どれもこれも、初見で全く興味のない俺にとってどうでも良かった。はよしゃべれ、と思っていた。
だが、おもむろにツインテの娘が泣くものだから、不思議と心が揺れてしまう。同情に似つかない、支えてやりたくなる心情が芽生えたのだ。
この光景に、皆の意見は一致した。これは『嫌な報告』が来る、と。
ファンはそうと知りつつ、頑張れと掛け声をかけ、ツインテの娘を励ます。
「――んっ。ご、ごめんな、さい」
ひくつく声が、事の重大さを示している。メンバーもその姿に、涙釣られるものもいた。
凛々花も例外なく、目を抑えていた。そんな弱い表情を見たことがなかったので、俺にとって今日一番の驚愕となった。
「長い間、この『からふるパレット』で活動して……色々な事を教わり、そして色々なことが出来るようになり……んっ」
「ミオ、頑張って!」
平然とした顔の緑髪の子が、ツインテ娘を励ます。
「……いっぱいの宝物を頂きました。ミオも、皆も、頂いたもの以上のモノをファンの皆さんに返そうと必死で努力したつもりです。だけど、私たちは破ってはいけない掟を破ってしまいました」
破ってはいけない掟?
俺の疑問に答えるよう、客から情報が流れる。
元メンバーのサキと言う子が、ファンと付き合ってしまったのだという。
よく聞く、恋愛禁止ってやつか。
ツインテ娘は話を続けた。
「この3年間、本当に楽しかった。最近入ったメンバーもいて、これからって時に躓いて……これ、言っちゃいけないことかもしれないけど、私たちはこのままだと経営的にやっていけないんです」
『ぼ、ボクはライブ料金が10倍になっても行くよ!』
『お、俺はいっぱいCD買うから!』
ペンライト持った男性二人の言葉に、メンバー全員が首を横に振る。
「そう言って頂けるだけで救われます――でも、これは私達と事務所が話して決めたことだから」
ステージ上にいる8人が一斉に頭を下げる。
「「「今までありがとうございました」」」
続けて、ツインテ娘が壇上の前に出て言う。
「私たち『からふるパレット』は今日を持って "解散"します」
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