第3話 堀内一家
やけに疲れる一日である。特段、大変なことをした覚えは無いのだが、何だか体が重たい。
そう思いながら、至って普通の一軒家の戸に手をかける。
玄関に入ると、奥からお淑やかな声が聞こえてきた。
「――あらら、おかえりなさい。ご飯冷めちゃったわよ?」
紫色の着物を着用し、とても46歳とは思えぬ容姿。まさしく俺の母親、堀内雅子。
父ともに、和を大事にしており、常に着物を着用している。しかも、食卓には和食しか並ばない。その徹底っぷりは、周りから『羨ましい』と思われているようだが、俺にとってはいい迷惑だった。
靴を脱ぎながら、ぶっきらぼうに答える。
「もう食べた」
「えー、そうなのー? どうしましょうかね~」
困ったわー、困ったわー、なんて言いながら、その場を徘徊する。
階段に差し掛かった所で、常に訝しげな表情を浮かべる父のことを思い出した。
「――そう言えば、父さんは?」
「お父さん? えっとー。うーん。はー。あっ! 仕事で北海道に行くって言ってたわ!」
おいおい、あんた一応嫁だろ。せめて夫の行動ぐらい把握してくれよ……
母の天然行動に頭を悩ませていると、上階から大きな声がする。可愛らしいが、どこか棘のある声。
「ママーっ! 明日のお弁当だけど……」
パンダがプリントされたピンクのパジャマを着用し、既に寝る準備万端。顔は小ぶりで、茶髪を一本で束ねたポニーテールが綺麗に映える。人はこの少女を美少女なんて呼ぶが、俺からしてみたら『生意気妹』としか思えない。そう、妹の『堀内凛々花(りりか)』である。
凛々花は階段ですれ違う瞬間、明らかに嫌な顔をして足を止め、生ごみを見るような目で俺のことを見下ろす。
「――ママ、明日は私が作るから、キッチン貸してね」
そして触られまいと、バンザイをしながら、俺の横を通り過ぎた。
どんだけ触られたくないんだよっ! 兄を危険物見たく扱うって酷くね!? ねえ、酷くね!?
傷ついた心を癒やすよう、ため息を付いては、階段を登る。登り終えてすぐ左側にある自室に入り、ベッドにダイブした。
明日は化学があって、宿題があって、ミニテストがあって――
羊を数える要領で、俺は眠りに誘われた。
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