第2話 先輩への敬意

 会場から遠くはない。徒歩5分といった所にあるサイゼ○アでご飯を済ませることにした。学生にとって、外食は高くつくもので、こういった格安レストランは非常に助かる。

「――カルボナーラとライス付きハンバーグですね」

 可愛らしいエプロンをまとった、お姉さんが注文を確認すると、厨房に下がっていく。

 その後姿を見届けると、初子先輩から話題を振られた。

「あのバンド。全体的に酷いけど、見限るのは早いと思うの」

「え、何すか唐突に」

 端においてあった水を引っ張り、俺を見つめる初子先輩。

「腕は素晴らしい物が合ったから。多分、メンバー間で方向性を定められていないだけなんだと思う」

 おこがましいと思いつつも、反論を一つ。

「音楽の技術が上手くても、いい音楽が奏でられるとは思いませんけど」

「どうかしらね。技術があれば少しのキッカケで、魅力的な音楽を弾けるものよ。逆に技術がなければどれだけ発想が凄くても、形にすることは出来ない」

 俺は体を前のめりにして言葉を出す。

「つまり、覚醒するチャンスが増えるってことですね」

「そう。下手だったのに、次の日には最高の曲を作ることは良くある。技術は一朝一夕で身につけられるものではない。でも逆は無いわね」

 さすが、メジャーデビュー一歩手前までいった事のある初子先輩。言うことが、一メタラーよりも断然説得力があるぜ。

「まあ、そうですよね。メタル系統なんて技術がなきゃ弾けないものばっかですから。今後続けていくなら技術は必須ですかね」

「分かってるじゃない。今日なんかゴリゴリのスラッシュだったし、なおさらだわ」

 二人の話はどんどん膨らむ。

 休日にこうやって、初子先輩とメタルライブを見に行っては議論を広げるのが至高である。

 二人の関係は元々、同じ『八野義高校』先輩後輩の関係だった。学園祭の初子先輩のライブを見て一目惚れしたのだ。この世にはこんなにも素晴らしい作品があるのか、と再認識させられた瞬間だったからこそ、俺は初子先輩に近づいた。先輩のファンとして、第一線を張ってきた。だから、それゆえに――俺には一つの蟠りがある。

 食事が運び込まれた時に、ふとその蟠りをぶつけてみた。

「――先輩、バンドは "再結成" しないんですか?」

 その言葉に何も返さない初子先輩。

 無言は肯定。その言葉がぴったりだと思った。

「とりあえず食べよっか」

 何も返せず、俺はご飯に手を付けた。

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