妹がアイドルだった俺はマネージャをやらされた
心はいつでも小学生
マネージャー宣言!
第1話 メタル好きの二人
『何の音楽が好きですか?』
もし仮に、神様へ1つだけ質問ができるならば、俺はこう聞くだろう。
音楽は人間とともに成長し、色々なジャンルに分かれてきた。ピアノだけで奏でるモノから、何十もの楽器必要とするものまで。面白いことに、これら全ての音楽はそれぞれに一定数のファンを持っている。まさに十人十色とはこの事か。
ならば創造主である神は何のジャンルが好きなのだろうか。どういった音楽が支持されているだろうか。知りたくなるのは音楽好きとしてなんらおかしいことでは無いだろう。
人間を創りだした神が認める音楽を知りたくなるのは、ある意味、音楽通の願いなのかもしれない。だから、そう質問したいのだ。
そんな哲学的思想を抱きながら、俺は暗いライブハウスの中、ステージ上で "グチャグチャ" な音楽を奏でるバンドメンバーを、冷たい眼差しで見つめていた。
「次の曲ぅ! ゴーヘヴン!」
顔に刺青の入った、一見反社会的人間に見える男が手を掲げる。すると、ドラムのリフから二曲目が始まった。
聞くからに精度の高い技術。それと裏腹に募る俺の不満感。
――ハズレ、か。
ただ歪ませればいいギター。とにかくバスドラを打てばカッコいいと思っているドラム。スラップが根底だと勘違いしているベース。グロウルで雰囲気を作っているだけのボーカル。
とてもじゃないが、これを "メタル" とは呼べない。エセメタル。もしくは、なしくずれのパンクって言ったほうが的確かもしれない。
こんなバンド、もう一生見ないぞ。
腕を組みながら、そう決心する。
「――おまたせ」
リズムよく指先で肩を叩いていると、背後から声を掛けられた。
赤髪を肩まで伸ばし、綺麗に整えているショートカット。下はジーンズ、上はクリーム色のテーラードジャケット。今をときめく女子大生『安口 初子(やすぐち はつね)』。俺の高校の頃の先輩であり、メタルを教えてくれる先生でもある。
「全然待ってないですよ。むしろ今始まったばっかっていうか、うーん」
「あら、これはまた――――言葉にしにくいね」
初子先輩も同意意見なのか、バンドメンバーを一瞥しては苦笑している。
「一曲めも似たような感じでしたよ」
「王道のスラッシュメタルね。全体的にメタリカ辺りを意識してる感じかしら」
メタリカと言えば、ビッグフォーと呼ばれるメタルの重鎮。良くも悪くも、速弾きを売りとしており、現在のメタルバンドに多大なる影響をもたらした一バンド。お手本にしても何らおかしくない。
「特にあのベースは指弾き、スラップ奏法――トゥルージロを意識してますね」
盛り上がるライブ会場の最中、煽るような笑いをしてしまう。すると前にいた鼻ピアスをした男性が、ギロッと睨みつけるので、俺は殴られないよう視線を落とした。
こ、こえー! 殺されるかと思った!
「うーん。バンド歴はそれほど長くなさそう」
初子先輩は顎に手を添えて、ボソリと言う。
俺は周りのファンを気にかけるよう、初子先輩に耳打ちをしてみる。
「本格派って言うよりも初心者って感じ――うぉ」」
俺の愚痴を聞き終わる前に、腕を引っ張られ、狭い廊下へと連れさられる。天井に目をやると、蛍光灯に群がる蛾が飛び込む。
「――こらっ!」
軽く、俺の頭にげんこつを入れる。
「音楽は自由よ! 正解も何も無いでしょ! 自分が嫌いだからって、音楽を貶しちゃダメ!貶すぐらいなら、聞かないで!」
正論をぶちかますその眼差しが、あまりにも真剣すぎて、俺は思わず頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……楽しみにしてたから、つい」
「はぁ。確かに拓也君ってばすごい期待していたもんね……とは言え音楽を貶しちゃダメ。これは絶対」
初子先輩はため息を漏らす。それから一回拍手を挟んで、
「嫌いなら聞くのをやめてご飯にしましょう! そこでお説教ね」
と切り出した。
チケット代1000円が勿体無い、と思いながらも、俺は説教を受けることにしたのだった。
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