第78話 Boy's Smell -Ayaka side-

 左足の銃創は癒えつつあった。だが、問題は脳挫傷の後遺症で残った言語障害である。


 思うようにならずイライラする私に、カズさんは一生懸命向き合ってくれた。勢い余って物を投げてつけてしまった時も嫌な顔ひとつしなかった。


「焦らなくていいよ。ゆっくりやろう」


私は、そんな彼の優しさに甘えきっていた。


     ※     ※ 


 それは、その日の夕食を終え、カズさんがコーヒーのお代わりを淹れに病室を出ていった後だ。


懐かしい匂い。男の子の香り・・・。


     ※     ※


 話は中学1年生の頃にまでさかのぼる。


この日、運動会で発表する組体操の練習中にアクシデントは起こった。


大きくバランスを失った私たちのピラミッドが潰れてしまったのだ。


てっぺんから落ちた子の腕はあらぬ方向に曲がり、他の生徒も打撲や擦り傷など何らかの怪我を負っている。


顔面蒼白の体育教師。

教室から見下ろす野次馬。


そんな最中、保健室まで私に肩を貸してくれたのがヨキシくんだった。


「おいシンイチ。平気か?」


汗ばんだ体操着から漂う「男の子の香り」。


(いい匂い・・・)


     ※     ※


「えっ!?ヨシキくん!」


彼だ!この場所にヨシキくんが居た!


なぜ?なぜあなたは、声をかけずに去ってしまったの?


それが答え?


「・・・・・」


今、私には一生添い遂げようと誓った人がいる。


笑っちゃうくらいイケメンじゃないんだけどね。


こんなオカマを誰よりも好きって言ってくれる人が・・・。


だから・・・。ごめんね。

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