第77話「R.I.P.」-Yoshiki side-
タバコを挟む指先が震えている。
「間違いない。シンイチだ・・・」
※ ※
あの日。アイツの手の感触は、聖母のように優しくもあり、淫らなメスのようでもあった。
全てを受け止めてくれそうな包容力と、身体の芯から這い上がるエロス。
下半身が熱くなる。
救けてくれ・・・。救けてくれ・・・・。
咲いてしまった惡の華。
そそり立つ陰茎。飛散する白濁液。焼き付く温もり。幾度も蘇るシーン。
自慰にふける日々。終わりなき妄想。
枯れない
あれからいったい何年の月日が経ったのだろう?
オレはもう、アイツの幻しか愛せない。
※ ※
「お待たせ!つい長くなっちまって悪かったな。調子はどうよ?帰りにピンクのカオマンガイでも食って帰ろうぜ」
オレは、そんなナオキさんの一声で悪夢の夏から呼び戻された。
だが、ショックの大きさゆえか、記憶の連鎖は止まなかったのである。
※ ※
シンイチとはそれっきり。一度も言葉を交わさぬまま中学生活は終わった。
通い始めた高校はまるで掃き溜めのようだ。
カラーギャングに暴走族。
仲間とつるまなければケンカもできないカスばかり。
オレは、そのうちの何人かを病院送りにしたところで少年院に入れられた。
多くの経験者が、中の生活を軍隊式だと嫌がるが、職業訓練で習った情報処理技術は、かつて受けたどんな授業よりも面白かった。
「将来はITで食っていこう・・・」
17歳の夏。オレは出所後も高校には戻らず、籍のあった児童養護施設からも退所を決めた。その後は、経歴をごまかして全国の地方都市を流転する日々が続いたのである。
一つの土地に留まれない理由・・・。
それは内に潜む狂気。沸々とたぎる怒り。
徒党を組むヤツらを見ると、ぶっ壊したい衝動が押し寄せてくる。
各地で問題を起こしては逃げるように転職を繰り返すオレは、いつしか業界の要注意人物になっていた。
この切羽詰まった状況で見つけた居場所こそが小豆島コールセンターだったのである。
そこで出会ったナオキさんが、怒れる野獣をブチのめしてくれたのだ。
「マリア様。あとひとつだけ願いが叶うなら、どうか夏の記憶にこびりつくシンイチを消し去って下さい・・・」
※ ※
あの人になら・・・。
ナオキさんが兄と慕う男になら、積年の想いを託せそうな気がする。
「シンイチ、やっとお別れだ・・・」
「・・・・・・」
「ずっと好きだった・・・」
「・・・・」
「だから・・・。お前は今日、死んだんだ」
「Rest in Peace!」
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