第43話 Taboo -Ayaka side-
ご家族とともに囲む夕食の場には、ナマズの蒸し焼きや水上菜園で採れた新鮮なハーブが並んでいた。ひと目見ただけで、それは私たちをもてなすためのスペシャルディナーだと分かる。
だが、そんな心尽くしの味も感じられぬほど、教会での発見はインパクトが強かった。
奥さんは、マリファナに手を付けない私を見て「具合でも悪いのかい?」と心配顔だ。
「そろそろ切り出そうか・・・」
隣に座るカズさんが諦めるように呟いた。
これ以上、先送りはできない・・・。
私は気のない返事で頷くと、滞在の本当の目的をご家族に告げたのである。
「突然ですが・・・。どうしても皆さんに聞かなければならないことがありまして・・・」
「・・・・・」
「今回私たちは、ある噂の真相を確かめたくてトンレサップ湖にやってきたんです。このマークに見覚えはないですか?」
そう言いながら、私がドラゴンフラッグのシンボルが映し出されたiPhoneを正面に向けると、暖かった空気が途端に凍りついた。
驚きと恐怖の反応である。
一家4人は、見てはいけないものを見てしまったかのように表情を曇らせた。
(やっぱり・・・)
「ご主人!何か知ってるなら教えてもらえませんか?大勢の子供たちが犠牲になっているんです!」
「・・・・・・・」
民家全体を重い沈黙が支配し、遠く聞こえるボートのエンジン音だけが微かに耳につく。
「なんてことだ・・・。明日の朝、一番の船で陸に帰りなさい」
奥さんと二人の娘たちも意見は同じなのであろう。
こちらを見つめる目は悲しげだ。
「すまない・・・アヤカ。よそ者が首を突っ込むのはやめてくれ。裕福な国で育った日本人には到底理解できないだろうがね」
ご主人はもう、それ以上何も語ろうとはしなかった。
私たちとトンレサップ湖の住民の間には、いったいどれほどの隔たりがあるというのか?
「裕福な国で育った日本人」
撥ね付けられたメッセージがグサリと胸に突き刺さった。
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