第44話 Salvation -Ayaka side-

 皓々と光る月が無辺の湖を照らしている。

言葉少なに夕食を済ませた私たちはハンモックに入った。


「L&M作戦もここまでか・・・・」


私は、惰性でつけたマリファナの煙を溜め息混じりにふぅーと吐いた。


「ねぇ・・起きてる?カズさんも一服どう?」


「とてもセッティングが良いとはいえないけどね・・・」


ゆっくりとハンモックから這い出た彼が、残り半分のジョイントを受け取った。


「俺たちのやってることって、所詮、裕福な国側から見た正義の押し売りなのかな?」


カズさんが吸い終わったジョイントを灰皿でもみ消した。


「それって人身売買も必要悪って意味?誰かの幸せの影で誰かが犠牲になる。そんなんで良いのかなぁ。納得いかないよ・・・。私、目が冴えちゃった」


 二人は、寝静まるご家族を起こさないよう民家から付き出た船着場のヘリに移動した。


「カズさん、ちょっと話は変わるけど・・・。相談に乗ってもらっていい?マリファナが効いちゃってるわけじゃないからね」


私は、そんな前置きの後で最近顕著になってきた不可解な現象について心中を打ち明けた。


「実はトンレサップ湖に着いてから頭の中に声が聞こえてくるの。子供たちの泣き声、悲鳴・・・。時には声だけじゃなくて断片的なビジョンまでチラつくの・・・」


「それって、超能力的な?」


「まぁね。いい年こいてかよ?って笑われちゃうか・・・」


「いや、全然笑えない。十分あり得るっしょ。マリファナやマジックマッシュルームの経験者なら、一度はそんなインスピレーションが降りてきたことがあるんじゃない?」


「ホント?カズさんに話して良かった。病院なんて行こうものならすぐに狂人扱いされちゃうよ」


「・・・・・」


「私には分かるの。頭がおかしくなったんじゃない。妄想や幻覚の類でもないって・・・」


 小さな波が桟橋に括り付けられたドラム缶にあたってフワリと身体を上下させた。


「この先どうすれば・・・。あっ。ごめん・・・。俺がこんなだと、シンちゃんに男らしくねーぞって怒られちゃうか」


「ううん。この件については臆病なくらいで丁度いいよ。やるだけやったなら、その先はもう人知の及ばぬ領域。私は、すべてをに委ねようと思ってる・・・」


(たとえそこに良からぬ結末が待っていても・・・)


「俺もアヤカに同意だな・・・。昼間の宗教批判と矛盾するかもしれないけどさ。仏教が持つ無限の可能性にかけてみたい。信じてるよ。形あるもの、見えてるものだけが全てじゃないって」


「カズさん・・・・」


「ん?」


「カズさん・・」


「どうした?」


「すべての人を救うまで、私は成仏しない・・・」


「・・・・・・・」


「なーんてね。キャハハハ。すべての生きとし生ける者が救われる世界。そんな世界、あってもなくても構わない。でもね。それを承知で目指さなくちゃいけないよ。人間界に生まれてきた私たちには果たすべき役割があるはずだから・・・」

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