第35話 Dear Papa -Ayaka side-

 したたかに酔った二人は駒沢オリンピック公園の前でタクシーを下りた。


母国の安心感がオーバーペースを誘ったのか、ウィード抜きでこんなにブッ飛んだのは久方ぶりだ。


断片的な記憶の一コマに、のお辞儀をするコンビニ店員さんと、100円とは思えない香りのドリップコーヒーが残っている。


 私は、ふらつく足取りのカズさんをに案内すると、静かに語り始めた。


「父が日本に戻っている日曜の朝は、必ずキャッチボールをやりに公園まで連れてこられたの。小学生の私は、その時間が苦痛で苦痛でたまらなかった。グローブやラケットをプレゼントされるたびに心の中では溜息ばかり。だって、ホントはテディベアやアクセサリーが欲しかったんだもん。それに、これは笑っちゃうんだけど・・・。私は何度注意されてもしかできなくて。想像つくでしょ?オカマのイメージそのまんまって感じの投球フォーム。あはははは」


ふと目を落とすと、彼は私の膝枕で寝息をたてていた。


「お父さん。男らしいとか女らしいって何?キャッチボールは苦手だけど、お料理なら少しは自信あるんだから・・・。そんなシンイチじゃダメ?そんなシンイチじゃ愛せない?」


カズさんの横顔に涙の雫がポツリと落ちた。


 夜遅くにも関わらずジョガーの数は増える一方だ。


「日本って平和だよね・・・。まるで箱庭の世界」


遠くからスケートボードがアスファルトを引っ掻く音が聞こえてくる。


「最後にこれだけは言わせてね。私は、この人のお嫁さんになるのが夢なの・・・」


「・・・・・・」


「ん?!あ!ヤバっ、俺、寝ちゃってたわ。もう12時じゃん・・・」


慌てて飛び起きたカズさんの頬に私はそっとキスをした。


「また、しばらくお別れだね・・・。ずっと私だけを見てて。もしも浮気なんてしたら・・・・」


「・・・・・・」


「呪い殺しちゃうかも・・・」


「怖っ!!サブッ!アヤカさー。寝起きのギャグにはキツすぎるよ・・・」


「キャハハ。冗談冗談。そんなにビビんないで。人を呪わば穴二つ。死ぬ時は私も一緒よ!アハハハハ」

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