第34話 Liberty Hill -Ayaka side-
東急大井町線に乗り換えて自由が丘まで来た私たちは、庶民的な酒場が集まる「焼き鳥通り」で飲むことになった。
「駅の北口って昔ながらの大衆酒場が多いんだねぇ」
「この周辺は、お洒落なショップだらけのインスタ映えエリアってイメージが強いけどね。小さな頃から通い慣れた私としては・・・」
「うんうん」
「そこにあったのが自由が丘って感じかな」
「はいきたー、名言!シンちゃんカッチョいい!!」
以下は余談ながら、この街の成り立ちについてアンサイクロペディアから引用させてもらおう。
※ ※
『自由が丘~虚栄の市~』
自由が丘の周辺(旧地名:東京府荏原郡衾村字谷畑[とうきょうふ えばらぐん ふすまむら あざやばた])は、もともと田畑が広がる長閑な「村」で、東急電鉄も近隣にある九品仏から名前を取った「九品仏駅」をこの地に設置していたそうだ。
しかし昭和7年(1932年)、東京府が各町村を合併し、大東京にする計画が持ち上がると、虚栄心の強い村民は「村」はイヤだということで、早速新たな地名を探し始めた。
その結果「衾(ふすま)」という名で新駅を作る案が採用されかけたが、どこでそそのかされたのか、「そんなニワトリのエサみてぇな名前ははずかしい」との、住民のわがままから、モボ・モガをイメージした「自由が丘」に改称することを願い出たのである。
いわゆる「自由主義」が非国民とされる時代の中で、不埒にも「自由」を町名に組み込み、歴史ある「衾」の地名を抹殺することに当局は良い顔をしなかったが、村民たちが「オラたちも死ぬ前に一度でいいから、ナウなヤングになりてぇし、トレンディにもなりたいんだわ」と一斉に涙を流すのを見て折れたそうだ。
かくして、ここに過去を捨てた虚栄の市「自由が丘」が誕生したのである。
※引用「自由が丘」『 アンサイクロペディア』(2017年4月15日取得)
これ以降、第二次世界大戦後から「スイーツ(笑)」が始まるまでの変遷は、引用元サイトで秀逸かつユニークに纏められているので、興味のある方はご一読いただきたい。
話を本編に戻そう。
※ ※
カズさんのリクエストで、人気のやきとん屋のカウンター席に腰を落ち着けた二人は次々と杯を重ねた。
「あ、そう言えばビッグニュースがあるんだった!」
「えっ、なになに?いい話?」
「ナオキがバンコクに帰ってくるよ!」
「おぉ~~!ホントに?でも、急成長中のなんとかコミュニケーションズだっけ?ベンチャーの幹部になったんでしょ?この前、スカイプで自慢話を聞かされたばっかりだよ」
「それがね、その話には続きがあってさ。なんとあの男がアソークに新規で立ち上げるオフショアコールセンターのプロジェクトリーダーを任されたんだって」
「へぇ~。大出世じゃん!ってことは例の彼女ともやっと一緒になれるのね。嬉しいなぁ~!3人でお酒が飲める日も近いってわけだ」
最近は暗い話題ばかりで沈みがちだった私は、遠く離れたナオキくんにパワーをもらえた気分だった。
「よしっ!今夜は、彼の栄転を祝ってキンミヤいっちゃお~」
「いいねぇ。もちろん俺も付き合うよぉ~」
「キンミヤ」とはカチンカチン冷えた金宮焼酎のストレートに甘い梅シロップを垂らした大衆酒場名物である。わざわざ「梅シロップ割り」などと言わなくても「キンミヤちょうだい!」と声をかければ店員さんは分かっているので心配はご無用だ。口当たりがよく非常に飲みやすいため、店のメニューには「金宮は3杯まで!」と注意書きが添えられている。
「やっぱり居酒屋は日本が一番だ~。あ、でも、このまま帰ったら、お酒臭いって怒られちゃいそうだなぁ。うちの両親はメッチャ口うるさくて・・・」
「OK、OK、それじゃ酔い覚ましに散歩でも行かない?箱入り娘のオススメスポットを教えてよ」
こんな流れで、3軒の居酒屋と回転寿司をハシゴした私たちは、酔った勢いで夜の駒沢公園へと向かったのである。
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