第31話 マイルドヤンキー -Kazu side-

 お目当ての「東横イン」はフロントの対応も抜群で、清掃が行き届いた客室と充実のアメニティグッズはまさに日本のビジネスホテルそのままだ。


「ね?ここに決めて正解でしょ?なまじの三つ星ホテルなんて目じゃないよ」


「ジャパンクオリティ万歳だね。朝からロクなもん食べてないから腹ペコだ~」


そんな会話をしながら、大満足の俺たちがフロントの前を通りかかった時だ。


「オキャクサマー。アタラシー、、キレイデス」


片言の日本語を話すカンボジア人スタッフに、オープン間もないイオンモールを大プッシュされたのである。


「え?イオン?貴重な時間を費やしてまで行く場所じゃないだろー」


「ほんとほんと。まずは東南アジアの喧騒を味わうべきよ」


こんな風に、最初は二人口をそろえてバカにしていたのだ。


 ところが、一歩、イオンの敷地内へと足を踏み入た俺たちは、たちまち夢の国の虜になってしまったのである。


     ※     ※


 カンボジア最大規模のショッピングモール「イオンモールプノンペン」には、シネマコンプレックス、スケートリンク、1200席を擁するワールドフードコート、ヘアーサロン、リラクゼーション施設まで、ありとあらゆる最先端スポットが集まっていた。


「よしっ。今夜の街歩きは中止。予定をモール散策に変更!」


「そうね。東南アジアの街並みなんて、どこも似たようなもんよ」


「お、おう・・・」


     ※     ※


 プノンペンには、トゥール・スレン博物館、キリング・フィールド、カンボジア王宮など、押さえておきたいスポットがいくつもある。

だが、しばらく日本を離れた二人にとってはイオンこそが輝いて見えた。

俺は、地元のショッピングモールを愛する「マイルドヤンキー」たちの心境が少しだけ理解できたような気分だった。


 『マイルドヤンキー』とは、マーケティングアナリスト・原田曜平氏(博報堂 ブランドデザイン 若者研究所)が、2014年に定義付けた概念である。


・生まれ育った地元指向が非常に強い

・「絆」「家族」「仲間」という言葉が好き

・小中学時代からの友人たちと「永遠に続く日常」を夢見る

・地元でリスペクトされてる人の喋り方や口癖が伝染する

・昔話が多い

・仲間のスーツ姿を煙たがる

・車(特にミニバン)が好き

・公共の交通機関は苦手

・1人で行動出来ない(車であれば可能)

・基本的に暇

・スロット、パチンコが好き

・テレビっ子

・親の離婚率が高い 

・できちゃった結婚比率が高く、子供にキラキラネームをつける

・子孫も同じ人生を歩む

・近くにあるイオンモールは夢の国


※引用「マイルドヤンキー」『ウィキペディア日本語版』(2017年2月10日取得)


 ちなみにホリエモンは、これらの特徴に加えて「EXILE(ダンス&ボーカルグループ)やONE PIECE(漫画)が好き」と、その著書の中で述べている。


悪意はないつもりだが、なぜかニヤニヤが止まらない俺の性格はネジ曲がっているのか?


何はともあれ、閉店間際まで遊びまくった俺たちは、戦利品のお刺身セットとワンカップ大関を土産に東横インへと引き上げた。


「ねぇねぇカズさん。ここってホントにカンボジアだよねぇ・・・?」


「近くにスーパー銭湯でもあれば言うこと無し。永住を視野に入れてもいいくらい」


 後日調べてみると、東横インからタクシーで10分ほどのところに、露天風呂とサウナが完備の日系ホテルが存在することも分かった。

インドシナ半島の旅に疲れたバックパッカーは是非とも立ち寄ってみてほしい。安宿に泊まってボロバスに揺られるだけが旅ではないはずだ。


「ジャパンクオリティ万歳!!」

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