第28話 First Village -Ayaka side-
五月蝿い割にはスピードの乗らない小舟が支流へと舵を切った。
ここからは推進力を手漕ぎのオールに切り替えるようだ。
「村への入口を部外者が見つけるのは至難の業でしょうね」
そう言いなから、一眼レフを構えたカズさんを船頭が咎めた。
「☓△◎¥●&○□◇#△!!」
「カズくん、撮影はダメだってさ。コイツがへそを曲げちゃったら計画はパーだ」
鬱蒼と生い茂るヤシのカーテンを掻き分けながらボートは進む。
むせ返るような湿気とうっとおしい蚊柱が不快感を煽り、ジッと息を殺すメンバーの額に玉の汗が滲んでいる。
※ ※
20分後。
どこをどう走ったのであろうか?
入り組んだ迷路の先で視界が開けた。
スマホを取り上げられた私たちに現在地を知るすべはない。
船頭はマングローブの根本にボートを固定すると、不躾に「降りろ!」と顎をしゃくった。
※ ※
上陸したポイントは小さな中洲にある集落だった。
バンガロー風の家屋が数棟、それに菜園や家畜小屋などが確認できる。
注意深く周囲を観察する3人に物腰の柔らかな若者が近付いてきた。
「ようこそ。私は施設の管理を任されるものです。どうぞ存分にご見学ください」
「あれ?高橋さん、案外フレンドリーじゃないですか?」
「いやいや・・・アヤカちゃん」
「・・・・」
「この村が犯罪の拠点であることがハッキリしたよ・・・。ほら、見てごらん。コイツの刺青を」
私は、高橋さんにそう促されて男の足首に目をやった。
(あっ!!これって!!)
心臓が止まりそうな衝撃が全身を貫く。
風になびく旗の中に黒い龍・・・。描かれたデザインが、マイちゃんの身体に彫られた刺青と一致する。
「アヤカ、大丈夫?」
青ざめる私の背中を擦ったのはカズさんだ。
顔つきを一変させた彼は鋭い視線を前方に向けている。
「念のため、ココナッツジュースは口をつけるふりだけにしておこう・・・」
高橋さんは睡眠薬をもられることを警戒しているようだが、もはや私は用意されたジュースなど眼中に無かった。
※ ※
近くに建つバンガローから赤ん坊の泣き声やヒソヒソ話が漏れ聴こえてくる。
気配から察するに、ざっと10人以上の児童がいるとみてよさそうだ。
どう考えてもスペースに対して密度が高すぎる。
一時的に押し込められた。
そんな状況がありありと伺える。
と、その時。
「☓△◎¥●!!」
ドアの影から半身を出した幼女に向かって男が怒鳴った。
「おっと失礼。これも子供らの将来のためなんでね。教育は厳し過ぎるくらいでいいんです。ガキは甘やかすと付け上がりますから」
一瞬だけ覗かせた看守の目・・・。
「ダメ元で建物の中を見せてくれって通訳してもらえませんか?」
カズさんの訴えを高橋さんが伝えたが、もちろん答えはNOである。
その後、幾つかの質問を投げかけてみるも男はのらりくらりとはぐらかすばかりだ。
「ここに居る子供たちの親はいったいどんな事情があって、可愛い我が子を手放したのでしょうか?金銭のやり取り・・・」
「だからっ!しつこいですね。親の事情なんて知りませんよ。我々は棄てられたガキどもを無償で養っているんです。何か問題でも?割に合わない慈善事業ですよ。これ以上、野暮な質問はご遠慮願いたい」
男がはっきりと苛立ちを見せ始めた。
「まあ、いいでしょう。そんなことより・・・。少々失敬な話ですが・・・。あなた方は、今回いかほど寄付金を収めていただけますか?日本人の相場は500ドルってとこですね」
「おいおい、ふざけるなよ。いきなりそんな大金を寄付しろだなんて。このチンピラ野郎が!!」
「高橋さん!ちょっと待って下さい。悔しいですがこの場はカネで解決しましょう」
私たちは、なぜカズさんが一言も抗議せず、理不尽な要求に屈服せざるを得ないと判断したのかすぐに知ることになる。
※ ※
男の合図で人相の悪い
「さっき用を足しに裏口へ回った時に、ヤシ林の奥から双眼鏡でこっちを監視する不審な人影があったもんで・・・」
「そういうことか・・・。俺たちは敵中に誘い込まれていたんだな」
形勢不利を悟った高橋さんが、渋々と100ドル紙幣5枚をテーブルに叩きつけた。
「帰りましょう!こんな所にいても腹が立つだけです。見るべきものは見ました」
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