第27話 メコンデルタの奥地へ -Kazu side-
ベトナムチームの一行を乗せたハイエースは2時間弱でミトーに着いた。
この街からスタートするメコン川クルーズは、蜂蜜農園訪問、ココナッツキャンディー工場見学、伝統音楽鑑賞、手漕ぎボート体験を経て、最期に永長寺参拝のコースをたどるのが定番だ。いち観光客の立場ならこれほどお気楽な旅はない。
だが、今回我々は"国際ボランティアセンターの職員を装った潜入調査"を決行するのである。次第に口数の減ったメンバーの顔に緊張の色が現れ始めた。
午前10時の船着き場は、オレンジ色のライフジャケットを付けた団体客でごった返している。その混雑を眺めながらクーラーの効いた車内で待つこと15分。ふいに助手席のガラスが叩かれた。
「お、来たな・・」
いつの間に近づいたのか、助手席のすぐ脇に深いシワが刻まれた老人が突っ立ている。
ドライバーがウィンドウを下ろすなり警戒心むき出しの目で後部座席を睨みつけてきた。
「無愛想なヤツだけど腕は確かだよ。こいつ以上にメコン・デルタを熟知する船頭はいないだろうね・・・」
そう言いながら車を降りた高橋さんが、バカにならない額のチップを男の手に握らせた。
「それじゃ、お二人さん。ジャングルツアーに出発だ!」
年季の入ったボロ船を始動させた船頭はメコン川下流に進路をとった。
「この川が中国まで続いてるなんて、スケールがデカイですよねー」
「カズさんとナオキくんが旅したルアンパバーンもメコン川沿いにあるんだよね?」
「そうそう。ナオキと一泊二日かけてフアイサーイからボートに乗ったんだよなぁ・・・」
メコン川はチベット高原に源流を発し、雲南省(中国)、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを4200キロにわたって流れる国際河川である。
これから向かう河口周辺では、肥沃な農地と縦横に走る水路を活かした独特な生活が営まれているそうだ。
「川の流れって人生そのものだよね。寄り道しながらも最後には母なる海に還るんだよなぁ・・・。フンフ~ン♪フフフ流れのフンフ~ン♪」
「あ、カズさんが壊れた・・・。キャハハハハ」
「なかなか詩人だねー。君の口からその名曲が聞けるなんて。あっはははは」
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