第10話 It's party time! -Ayaka side-

 ピピ・ドン島でツアーを抜けた私たちは、ゲストハウスやダイビングショップ、レストラン、土産物屋が密集するトンサイ地区を歩いていた。


「コンビニやATMまであるんだ・・。物資調達なんて必要なかったか・・・」


「だから言ったでしょー。どうすんのよ!こんなに大量に買い込んだお酒とつまみは!」


「え、あ。うん・・」


私は、滅多にカズさんが怒らないのを幸いとばかりに、悪いと思いながらもつい言葉がきつくなってしまう。


「あ、ゴメン・・・」


ところがである。奇妙なことに最近の彼はこんな場面でも機嫌を損ねるどころか、むしろ幸せそうに目を細めるのだ。


(なんか様子が変なんだよねぇ・・・)


「今夜はがっつりキノコを食うぞ!」


不審がる私の横でマジックマシュルームの看板を見付けたカズさんはトリップする気満々のようだ。


     ※     ※


 今宵の宴に思いを馳せながら島内をブラついていると、グラフティが描かれた小道の奥で人物が声をかけてきた。男が広げるセカンドバッグの中には、スピードやエクスタシーなど、よりどりみどりのドラッグが詰まっている。

無論、ケミカルはやらない主義の私たちに買うつもりはないが、その気になれば何でも手に入りそうだ。


「ジャンキーにはたまんねぇなぁ」


「ハマったら廃人になっちゃうね・・・」


 ピピ島のダークサイドを垣間見た二人は、釈然としない心持ちで宿探しを始めた。


トンサイ地区の利便性は捨て難いが、団体客でごった返す場所では静かなセッティングを望めそうにない。そこで、地図を眺めて目星をつけたのが島の南東部に広がるロングビーチエリアだった。

陸路の交通手段が無い(徒歩で20分ほどのトレッキングを強いられる)ところは面倒だが、繁華街とロングビーチの間を水上タクシーで往復できる。


「カズさん、ここまで来たからには全力で秘境を楽しんじゃおうよ!」


「飛び込みで泊まれる宿があればいいけどね。離島にありがちな掘っ立て小屋のバンガローだけは勘弁。俺が泊まる宿には必ず巨大昆虫が出没するってのが決まりだから・・・」


「なによ!男のくせに虫くらい。とにかく行ってみてダメだったら戻ってくればいいの!」


 結果は大正解だった。ベランダ付きのお洒落なヴィラにチェックインできた二人は洗いたてのシーツにダイブした。


     ※     ※


「It's a party, let's get it on tonight♪♪」


 長い昼寝から目覚めると、カズさんがBusta Rhymesの曲を口ずさみながらぎこちない手つきでジョイントを巻いていた。


「はは。久々だからこんなに不細工になっちゃった・・・」


「いいよ、いいよ。無理しないで」


格闘技に熱を上げてから禁煙を始めたカズさんのために、私はタバコの葉を混ぜないピュアなジョイントを3本作った。


「Good Job!やっぱアヤカのジョイントってアートだよな。吸うのがもったいないくらい」


「えへへ。そうでしょー。もっと褒めて。細巻きながらもラッパ状に仕上げるのが私流なの」


「OK!それじゃさっそく一服キメて仕入れに行こう!」


 陽が沈んだビーチのあちこちに篝火かがりびが灯されている。ボート乗り場へと続く光の列が二人を幻覚の世界にいざなった。

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