第9話 ザ・ビーチ -Kazu side-
大荒れの海は天候の回復ととも平静を取り戻し、ピピ島付近は嘘のような
抜ける青空と切り立つ絶壁の島々。
美しすぎるアンダマンブルーに乗客の誰もが息を呑む。
「We Are The Champions!」
俺は、戦いを見守ってくれたアヤカに勝利の拳を突き上げた。
伝説のビーチは目前だ!
生還者たちを乗せたボートはマヤ・ベイへと吸い込まれていった。
※ ※
多くを語るのはやめだ。「ザ・ビーチ!」そのままの世界。映画の中を泳ぎ回る二人はリチャードとフランソワーズのよう・・・と、自画自賛したいところだが、アヤカはともかく俺の方は悲しいほど農耕民族の域を出ない。
※ ※
マヤ・ベイの次はバンブーアイランドで真っ平らな白砂ビーチが待っていた。この離島は断崖絶壁のピピ・レイとは対象的な一周2キロにも満たない小島である。
塩で乾いた俺たちは、木陰に座ってビアシンのプルタブを起こした。
ありえない透明度の海水を眺めながらテンションはMAXだ。
「バンブーアイランドはオマケ程度かと思ってたけど、ここもヤバイなー!」
なんでも「ヤバイ」で片付けるのは語彙力を欠く現代人の悪い癖である。だが、真に素晴らしい景色は言葉になどならない。
かの俳聖、松尾芭蕉でさえ「松島やああ松島や松島や」としか出てこなかったのだ。
(この句は江戸時代後期に相模国(神奈川県)の狂歌師・田原坊が作ったもの。あまりの絶景に芭蕉は言葉を失い、それに合うような句が作れなかったとの逸話を面白おかしく創作したものである)
ヤバイヤバイを連呼する俺に「あんただって物書きの端くれでしょ!バカ!」と、急にアヤカが噛み付いて来た。
形容しがたい快楽が
(もっと・・・。叱って欲しい・・・もっと、もっと、もっと!)
得体の知れない
「
なんと卑猥な・・・。
淫らで汚らしく、限りなく
己の覚醒をはっきりと認識する瞬間だった。
「なにニヤニヤしてんのよ!」
「クソっ!なんかイラつくな。どうにでもなれ!!」
「あぁ?逆ギレかー!オラオラオラー!」
アヤカの鋭いエルボーが脇腹をえぐる。
「あっ、はう。うぅぅ・・。はあぅ。あ、だ、だめ。や、止め・・・」
「ぎゃははっははは」
「や、止めないでくれーー!!!」
「えっ!?」
俺はアンダマン海に浮かぶ秘密の島で、隠しきれないほどに育ってしまった「禁断の果実」を見つけたのだ。
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